第六話:敵
「どういうことですか、技術部門長殿。意味が分かりません」
かわかわれていると思ったのだろうか。アイは無表情でキョウジに問いただす。
「そのままの意味ですよ。地球はわれわれの敵、倒すべき敵です」
「この私たちの足元にある大地が敵だというのですか?」
「ばかばかしいと思いますか」
キョウジはいたって真面目な表情で答える。とてもふざけているようには思えないが
色々なことが短時間で起こりすぎて理解がついていかない。
「政府の公式発表にはありませんでした」
「当たり前です。そんなことを言われて信じられますか? 現にあなた方も疑っている」
「では技術部門長殿は”連中”が地球上の生物だとでもいうのですか」
アイの言葉にはあきらかにあいつら──地平線の彼方から来る異形の敵たち──への憎しみが
込められている。
彼女の感情は当然のものだ。
この基地にいて、肉親があいつらの餌食になっていない人間などいないのだから。
「正確には地球がわれわれを殲滅するために生み出した生物です。古来種ではありません」
キョウジの言葉を完全に信じるまえに、私の頭にある疑問が浮かぶ。
「どうしてそんなまわりくどいことを? もし地球が本当にわれわれを殲滅しようとしているなら
地震なり洪水なりで一掃した方がてっとり早いのでは?」
私の質問に彼はさも当然という表情で答える。
「簡単です。地球が敵視しているのはわれら人類だけ。他の動植物はターゲットではないのですから」
「つまり、あのモンスターたちは人間というウィルスを殺す白血球だと?」
「いい例えですね。その通りです」
「でも何で?」
「さっきご自身でおっしゃった通りです。私たちは地球にとってウィルスなのですから」
私たちの間に押し入るようにアイが叫ぶ。
「馬鹿げてる! そんな、そんなことが……」
「事実です。残念ながら」
「でも誰が?! 誰が”連中”を作ったんですか!」
「先ほどからお伝えしているでしょう。地球です」
「地球に意思があって、”連中”を作って私たちを殺そうとしてる……? バカにしないで!」
アイの怒声が白い部屋に響く。
どうやら彼女は感情のコントロールがあまり得意ではないようだ。
「冗談ではありませんよ。本人がそう言っているのですから」
「本人?」
「そうです。地球本人からわれわれに向けた宣戦布告を受け取っています」
「まさか、地球とコミュニケーションを取ったとでも言うのですか?」
冗談でもこんな馬鹿馬鹿しい話は聞いたことがない。
「ええ。何でしたら”彼女”と話してみますか?」