第四話:オリエンテーション
無精ひげの男に促されるまま、私は部屋の中央にあるソファに腰掛ける。
私の隣には食堂で会った女の子が座っていた。眉間にしわを寄せて苦しそうに
しているところを見ると、彼女も良い目覚め方をしたわけではないようだ。
私が隣に腰掛けるのを見ると、辛そうに小さな笑顔を浮かべる。
「さて、これでメンバーが揃いました。まずは自己紹介といきましょう」
男は背もたれを大きく軋ませ、反動で弾むように立ち上がる。幸いなことに
男の下はよれよれのジーンズのようだ。
「私はキョウジ。技術部門長であり、今日からは君たちの直接の上官です」
うやうやしくお辞儀をすると、キョウジと名乗った男はまたすぐに椅子に
ドスンと腰掛けてしまった。
少しの間の沈黙。
キョウジは黙って私たちに期待の眼差しを向けている。
隣の女の子に目を向ける。困惑したような苦しそうな表情をしているが
おそらく私も似たような表情をしているのだろう。
キョウジの足元からトントンと小刻みに音が聞こえる。急かしているのだろう。
仕方がないので私はキョウジにならって立ち上がる。
「ユウキ上等佐官、戦闘班所属。以上です」
座ろうとする私を右手で制すると、キョウジは嬉しそうに声をかける。
「実にシンプル、実にいい。ですが、できれば志望動機なども聞かせてもらえますか?」
「自分は志願者ではありません」
「と、申しますと?」
興味深そうにキョウジは指を組みながら身を乗り出す。
「何と申しますか、気がつくとあそこにおりました」
キョウジは私の言い訳に、先ほどまでのにやにやとした嫌な笑いを浮かべる。
「無意識のうちに食堂に来てしまうほど、うちの食料事情は火の車ではないと思いますが?」
「空腹からではありません。無意識のうちにこういう行動に出てしまうのです」
「それは珍しい。なにかそのようなことをしてしまう心当たりがあるのですか?」
「いえ、事故の後遺症です」
「三年前の?」
ぎくり、とした。
キョウジの顔からはにやつきが消えていない。この男は私の過去を知っていたのだ。
「悪く思わないでください。この基地の人間の素性や経歴はすべて調査済みなので」
「悪趣味ですね」
「そう思います」
彼は笑いながら、私に座るように手を下に振る。食えない男だ。
となりの女性はまだ困惑の表情を浮かべている。むしろ、私の受け答えのせいで
それはさらに酷くなっているようだった。
キョウジはとなりの女性をちらりと見ると、机の上の書類を取り上げる。
「アイ三等整備員」
「あ、はい!」
名前を呼ばれた女の子がよろめきながら立ち上がる。
「君も志願してきたのですか」
「はい」
書類を放り出すと、キョウジはアイを見ることもなくぼさぼさの頭を掻き毟る。
アイはどうしていいかわからず、おずおずとソファに座りなおす。
こうして前途多難なチームのオリエンテーションは終了したのだった。