第三話:試験
夢を見ていた。
いつもの夢。
真っ暗な闇の中で、顔も見えない相手から語りかけられ続ける夢。
それはとても不気味なことのはずなのに、夢の中の私はなぜか安心してしまう。
一体、この夢は何なのだろう。
私の壊れた記憶と関係が有るのだろうか。
だとすれば──
覚醒は突然起こった。
目を覚ますと同時に、ぼんやりするヒマもないほどのはげしい頭痛を感じる。
強制的に寝ている人間を起こすためのクスリでも打たれたのだろう。
じんじんと頭蓋骨の中で反響する痛みに耐えながら視界に入る景色を眺める。
天井と電灯。
あまりの激痛に、私は自分が横たわっていることにすら気付いていなかった。
上半身を起こしてあたりを眺める。
床は基地内でよくある打ちっぱなしのコンクリートではなく、上品な白い
カーペットの下から木目が見えている。壁にはいくつかのモニターが埋め込ま
れており、空いたスペースには賞状と写真が飾られている。
すぐ正面には大きな机があった。
その後ろにあるリクライニングチェアには男が座っている。
男の姿は異様だった。
ぱっと見るだけでもこの部屋は相当な地位の人間のものに見える。
だが、部屋の主と思われるこの男は薄汚れた白衣を身に着けており、その下には
劣らないくらい汚れたTシャツを身に着けていた。
下半身までは分からないが、裸でも驚かないくらいの身なり。
彼はとてもこの部屋にいるべき人間には見えなかった。
私が目を覚ましたことに気がつくと、男は無精ひげだらけのアゴをさすりながら
にやにやと不快な笑みを浮かべた。
「おはようございます。どうですか、ご気分は」
「最悪」
男の問いかけに、私はごく端的に状況を伝える。
「どうかご勘弁を。こういうことは秘密裏に行いたいものでしてね」
「こういうことっていうのは、基地にいる人間を誘拐するということ?」
「誘拐なんて人聞きの悪い。そもそも志願したのはあなたでしょうに」
男の言葉に思わずはっとする。
「ということは……」
「ようこそ。本当の試験会場へ」
男の顔から不快なにやつきが消える。
「そしておめでとう。あなたは合格した」