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第二話:ただひとりの志願者

試験の予定時刻はとっくに過ぎていた。

それなのに会場には試験官の姿すらない。

遅刻は厳罰だというのに。

五分待って誰も来なければ部屋に戻ろう。

私がそう考えていると、不意に後ろから声をかけられた。

「あのう」

振り向くと食堂の入り口から人影がこちらをのぞきこんでいる。

「あ、その、ごめんなさい」

声の主は基地で何度か見かけたことのある女の子だった。

茶色くハネた髪と、ぶ厚い眼鏡の奥にあるグリーンの瞳。

名前までは思い出せないが、私の記憶では整備班にいた子だったと思う。

「ここ試験会場ですよね?」

その言葉に私は驚いた。

彼女は志願者だったのだ。

私を入れると二人目の受験者だが、彼女はただひとりの志願者だ。

何も考えずにここにいる自分がなんとなく気恥ずかしくなり、曖昧な返事をする。

「そうだと思う」

「良かった!」

ぱっと笑った彼女の口に、八重歯がちらりと見える。

「あなたは、その、試験官の方?」

「違う。私は試験官でも志願者でもない」

私の返答に彼女はあからさまに怪訝そうな顔をした。

それはそうだ、と私は思った。

私が深夜の食堂にいることについていったいどう説明すればいいのだろう。

「気が付いたらここにいた」

前もって用意していた私の言い訳は、彼女の眉間により皺を作ることになった。

仕方ない、多少時間がかかっても一から説明するしかなさそうだ。

「正確には病気。 後遺症とでも言えばいいだろうか」

「後遺症? それってどういう・・・」

言葉の先は続かなかった。

小さなうめき声とともに彼女はテーブルの上に倒れこむ。

とっさに手を伸ばそうとして、自分にも異変が起きていることに気付く。

思うように身体が動かない。

まるで手足が自分のものではないかのように、重い。

支えきれなくなった上半身が彼女のあとを追うように倒れこむ。

何が起こったのか理解できないまま私の意識は薄れていった。

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