第一話:深夜の食堂にて
この世には英雄的行動と呼ばれるものがある。
例えば戦場で傷ついた仲間を救出するような。
あるいは圧政に苦しむ人民のために決起するような。
これらのような誰かのために死力を尽くす行為は、いつの時代であっても人々から称えられるものだ。
だが、それが本人の自覚しない無意識で起こされたものだとしても、はたして賞賛に値するものなのだろうか。
そして行動の結果がすべてだとしたら、成果のないものはたとえ真の正義の心があっても英雄としての資格をもたないのだろうか。
午前一時五十五分。
いつもならばベッドの中か機銃の砲座にいる時間だ。
だが、今夜の私は食堂の隅にある小さなテーブルの前にじっと座っていた。
間接照明だけがかすかに点いている部屋に、大型冷蔵庫のモーター音だけが小さく響く。
あたりには誰もいない。
深夜の食堂でなにもせずにぼうっとしていれば何かあったのかと心配されてもおかしくない。
事実、私は病気だ。
3年前の事故以来、自覚しないままに英雄的行動をとってしまうことがある。
今日もその病気が出てしまい、こうしてここにいるというわけだ。
別に肝試しをしているわけではない。
私は人類最後の希望の担い手を決める試験に参加しようとしていた。
そういうものは、普通は立派な会議室や司令室で日中に行われるようなものだし
参加者も士気旺盛で未来を守るために本気で挑むものだろう。
志望動機を聞かれても、気が付いたらここにいたとしか私は言えない。
そんな英雄が居て言い訳がない。
そもそも、ここには私以外誰もいないのだ。
がらんとした食堂はいかに人類が疲弊しているのかを雄弁に物語っている。
部屋に逃げ込んで寝てしまうことも考えたが、きっとまたここに戻ってきてしまうだろう。
だから私は、ここでただ座って時間が過ぎるのを待っていた。
何度目かのあくびをかみ殺し、壁にかかっている時計に目をやる。
時計は午前二時一分を表示していた。