11連ガチャ爆死記念短編『ガチャ島太郎』
むかし、むかし……。
ある所に、ガチャ島太郎という若者がおったそうな。
ガチャ島太郎は漁師をして生計を立てておった。
毎日朝早くから漁に出て、その日に取れた魚を売って得たなけなしのお金でガチャを回して爆死する。――そういう貧しい暮らしをしておったそうな。
ある日のことじゃった。
ガチャ島太郎がいつもの様にガチャで爆死した結果をツイッターで呟いて、ファボとリツイートを稼ぐという不毛なことをしておった時のことじゃ。
何やら浜辺で子供が騒いでるようで、大きな声が聞こえてきた。
「はぁて、悪ガキども。またなにかしでかしておるっぺな……」
ガチャ島太郎がやや急ぎ足で声の方へ向かうと、案の定村の子どもたちが何かを囲んでいじめている様じゃった。
「こんれー! ガキども! 何しよっとかー!?」
子どもたちがまたぞろ何かいじめているのだろう。
そう当たりをつけたガチャ島太郎は、村の若い衆の義務として早速悪ガキどもを叱りつけてやる。
「あっ! 太郎さだ!」
「太郎さも見てくんろ!」
「そだそだ! 太郎さにも聞いてもらわな!」
「はて? なんぞおったか?」
しかし、村の子供たちから返ってきたのはいつもと違う反応じゃった。
ガチャ島太郎は不思議そうに子供たちがいじめていた物体を覗き込む。
……ぎょ!
ガチャ島太郎は目を見開いて酷く驚いた。
それもそのはず……。
「メンテします……メンテします……」
「あんれーっ!! こりゃ運営じゃねぇっぺか!!」
なんと、村の子どもたちにいじめられていたのはガチャの運営じゃった。
ガチャの運営はガチャを回すのに必須の存在じゃ。
なんでこの様な場所にやってきたかは分からんが、いじめるなんてとんでもないことじゃった。
流石のガチャ島太郎も驚き慌てて、大きな大きな声で子どもたちを叱りつける。
「おめぇら! なんてことしよっとか! やって良いことと悪いことの区別もつかんか!? 閻魔様に地獄で説教食らうべよ!」
「違うんじゃ太郎さ! こいつが、こいつが悪いんじゃ!」
「そうじゃそうじゃ! この運営はの、ガチャのレア排出量で、嘘の記載をしておったんじゃ!!」
「あんれー! なぁんてことを!?」
ガチャ島太郎はまたまた驚いた。
それは生まれてから一番と言っても間違いではないほどの、大きな大きな驚きじゃった。
ガチャで出現するレアキャラは通常その排出量が記載されておる。
みんなその僅かな数字に己の運命をかけて、ひたすら金を突っ込んでおるのじゃ。
それが嘘だったとなると、それはもう何を信じてよいか分からんかった。
「そうじゃ! だから懲らしめておるんじゃ!」
「太郎さも一緒になって懲らしめてくれよぅ」
「侘び石じゃ! 侘び石じゃ!」
「いけんいけん! そげな非人道的なことは許せん! 後はワシがよう運営に言い聞かせるけん、お前ぇらは家に帰っちょれ!」
しかしガチャ島太郎は冷静じゃった。
ここでガキどもと一緒に騒いでも何も解決せん。
そう思った太郎は、子どもたちを先に家に帰すことにしたのじゃ。
「ええっ!」
「そげん納得できんよ太郎さ!」
「一体いくら突っ込んだだと思っとるんじゃ!」
しかしそれで納得するようなら子どもたちも悪ガキとは呼ばれておらんかった。
ここぞとばかりに文句を言い出し、また運営を棒で叩き始めたのじゃ。
その様子を見たガチャ島太郎は大きなため息をつくと何やら懐を漁り始めた。
しばらくして出てきたのは、金色に輝く三枚のチケットじゃった。
「ほんに仕方ない悪ガキどもじゃ……ほれ、これでいいか?」
「「「ガチャチケだぁぁぁ!!!」」」
「早速ガチャ回そうぜ」
「次は出る、次は出る、次は出る」
「太郎さはやっぱり村一番のイケメンだっぺ」
子どもたちは途端に目を輝かせ、ガチャチケを奪い取るようにガチャ島太郎から受け取る。
やがて薬物中毒者のそれに似たどこか虚ろで狂気的な光を瞳に灯らせると、ブツブツと何かうわ言の様に呟きながらふらふら何処かへ歩いていってしまった。
「はぁ……ほんに仕方のないガキどもじゃの」
「うう、ありがとうございます、助かりました」
残されたのは、ガチャ島太郎と、哀れな運営だけじゃった。
運営は自分が助かったのを理解すると、ぽろぽろと涙をこぼして頭を下げて礼を言う。
ガチャ島太郎は無言で微笑んだ。
「あのぅ、助けてもらったお礼に……」
「勘違いすんじゃねぇ!!」
返答は強烈なミドルキックだった。
「てっめぇぇ! ふざけてんじゃねぇぞ! お前景品表示法って知ってるか!? おおっ!? ああ!?」
ドスの利いた声が浜辺に響く。
ガチャ島太郎はいい年ぶっこいてガチギレしていた。
もうなんか日本昔話風の特徴的な口調すら忘れてキレている。
だが誰も彼を責めることはできない。
突っ込んだ金額の大きさが、彼の怒りそのものだったのだ!
「消費者庁に連絡するかな! マジで今回は許せねぇわ! ほんと、ネットの仲間たちで徹底的に潰すから覚悟しろよ!」
ガチャ島太郎には仲間が沢山いる。
みんなガチャが大好きで、みんな爆死していた。
彼らの怒りは如何ほどばかりか? 運営はバレやしないだろうという楽観的な思い込みと、目先の金で恐ろしいものを呼び起こしてしまったのだ。
「侘び石あげます……侘び石あげます……」
「……………………侘び石位で許すと思ったら大間違いなんだよ!」
長い沈黙と葛藤の後、ガチャ島太郎はその提案を拒否した。
侘び石ですら今の彼を動かす要因にはならなかった。
彼のプライドが……突っ込んだ諭吉さんが……それを許さなかったのだ!
「返金しろ! 返金だ! キャラはそのままで返金しろ! その上で侘び石だ!」
がっしぼか!!
ガチャ島太郎は運営を口汚く罵りながら何度も蹴りあげる。
次いで悪ガキが放って行った木の棒を拾い上げると、勢い良く運営を叩き始めた。
運営はただうずくまりながら謝罪するしかできない。
されど、いつまでたってもガチャ島太郎の怒りは収まらない。
「ひぃ……ひぃ……うっ」
「おい、聞いてんのか!? オイッ!?」
「…………」
何か、様子がおかしかった。
先程までか細い声で謝罪していた運営が途端に静かになったのだ。
ガチャ島太郎も訝しげに思い、ごろりと運営を蹴り転がすとその顔を覗き込む。
「おい、何か言えよ? おい、……いや、大丈夫か? おい、おい!」
運営の顔は血の気が失せ、ピクリとも動いていなかった。
「し、死んでる……っ!?」
なんと運営は死んでしまった。
ガチャ島太郎の蹴りで、棒きれによる殴打で……死んでしまったのだ!!
「お、俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ! こ、こいつが悪いんだよ! ガチャの排出量誤魔化したりしてるから! い、一体いくらつぎ込んだと思ってるんだ! 俺は悪くねぇ!」
慌てふためくガチャ島太郎。
滝のように溢れる汗を拭いながら、必死に自己弁護をはかる。
「そ、そうだ! ガキどもだ! あいつらがやったんだ! あいつらが……。俺が来た時には、もう死んでたんだ!」
一気にまくしたてる。
穴が空きまくったアリバイだが、もはやそう言い張るしか彼には残されていない。
認めてしまえばムショ行きは間違いなかった。
「く、くそぅ。ついてねぇ! ついてねぇよ……。なんで俺がこんな目に……」
半べそをかきながら、必死に木の棒の指紋を拭き取るガチャ島太郎。
平凡な日常を送っていただけなのに……なんでこんな目に遭うのか彼には分からなかった。
そう――ガチャ島太郎は知らなかったのだ。
この哀れな運営の死も、全て竜宮城のシナリオの一つに過ぎないという事を……。
やがて来る世界終わりの日に向けた、膨大な数の歯車の一つだということを……。
ガチャ島太郎は、何も知らなかったのだ――。
めでたし、めでたし。
なんもめでたくねぇよ!!(マジギレ