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テレフテア・アポカリプス  作者: ほざお
第五章 真珠色の双子
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 遠方に広がる黒喰と真珠色、それに負けず劣らずの山吹色を眺めながら、車にもたれかかった二人組は大きく息を吐く。その光景からおよそ百メートル以上離れた先、そこで車を止めた彼らの下より三人組の少年と少女は去っていった。たった一つの礼と、二人を心配するような言葉だけを残して。

 過ぎ去っていくその姿を思い出し、二人は何とも言えない無力感に打ちのめされる。

 うーちゃんとすーちゃん、共に定年間近の二人組は、自身らが犯してしまった行為の意味を考え、ため息に似た息を吐いた。彼らのしたことがどれほどに危険であり、大人としては間違った道を歩んでいるか、それを自覚しているからこそ、後悔は計り知れない。それでも彼らをここまで送り、引き止めることなく送り出してしまった事実は変わらず、そのために本来であれば逃げるべきこの場所にあってなお、二人はただそれらを眺めるだけで一向に避難しようと言う気が起きなかった。

 柊椿、レーヨ、現利愛。自身らをそう名乗った三人組の幼い少年少女は、高層タワーからの救出の後、二人に車を出すように頼んできた。当然、二人はそれを断った。現場近辺に行くなど危険極まりないことであり、何より彼らは子供だ。そんなところに連れて行けば、危険どころか現場で戦っている者たちの邪魔となる可能性すらある。大人として、あるいは正しく刑事として、彼らはそれを否定した。しかし、武器を向けられ、行かなければ車を奪うとまで言われればどうしようもない。それでも抵抗する、と言うことが真っ当な人間であれば正しいのかもしれないが、そんなことをして打ち倒されでもしたら、それこそ彼らは最低の屑だ。勝てないと分かっていながら抵抗し、少年少女たちの死に行く様すら看取らず、その責すらも負うことを放棄する。勝てないから、クラティアが相手だからしょうがない、そう周りは言うかもしれない。そんな慰めを受けるぐらいなら、安易に子供たちを戦場へと送り込んだ戦犯としての(そし)りを受けた方が遥かにマシだ。

 己が責はしっかりと負う。

 それは彼らが数十年を生きて得た実感であり、想い出の少女が説いてくれた教えでもある。

 だが、だからこそ後悔は止まらない。己の行為を思い返し、危険な戦場へ幼い子供たちを放り込んだ自身らが呪わしい。

(結局、俺たちはあの頃からなーんも変わってないのかねぇ)

 五十年前、彼らは想い出の少女――アルケーが戦場へと赴くことを止められなかった。クラティア災害を止めるべく奮闘した彼女を送り出すだけで、その帰りを待つだけで、力になることも出来なければ、救うことも出来なかった。

 それは、今も同じだ。

 そして今度は、その想い出の少女が破壊の権化と化した戦場へ幼い子供たちを送り込んでしまった。

 まさに数奇な運命のいたずら、と言う他無い。神様とやらがいるなら、その底意地の悪さを恨んでしまう。

「なぁ、うーちゃん」

 不意に、空を見上げていたうーちゃんをすーちゃんが呼ぶ。彼はただ一点、いつから持っていたのか双眼鏡で何かを見つめ、口元にどこか嬉しそうな笑みを浮かべている。その視線の先にいるのは、真っ黒の小さな点だ。

「アルケーちゃん、活き活きしてるぞ」

 それは嬉しそうに言うことなのか、とうーちゃんは思うが、思わずその双眼鏡を奪い取ってしまうところを見れば、本質的には彼も同じものを抱えているのだろう。

 双眼鏡を覗いた先、そこに追い求めた想い出の少女が変わらない姿でそこにいる。見慣れた髪と瞳、透き通るような白い肌、暑くは無いのかと言い続けても着続けていた黒いローブ。素足なのは以前と違っているが、そう言えば靴下は嫌いな子だったなぁ、とぼんやりと思う。

 そこに彼女はいる。五十年前と変わらず、確かな美しさを放っている。その目は、すーちゃんの言う通り光り輝いてた。だが、あれは活き活きしてはいても、駄目な方向に輝いているじゃないか、とうーちゃんは思う。すーちゃんに双眼鏡を手渡しながらそう言うと、彼は口元を緩ませた。

「いいんだよ、アルケーちゃんが楽しいならそれで」

「すーちゃん、それはいくらなんでもあんまりだろう」

 仮にもそのアルケーへと挑んで行った少年少女たちを送り届けた身だ。やる気十分と言った感じのアルケーを全力で喜べるかと言うと、うーちゃんには少し難しい。それでもその姿を嬉しく思う気持ちはある。資料で読んだ最悪の死に様を思えば、ああして笑っていられるだけでもマシなのかもしれない。いや、ああして死んだからこそ、あんな風に嗤っているとも言えるのだが。

「それになぁ、俺は別にあの子たちを心配してねぇーんだ」

「はぁ? おいおい、そりゃすーちゃん、ちょっと聞き逃せんなぁ」

 はは、勘違いするな、とすーちゃんが笑う。その笑顔は、どこかの誰かにかつて向けていた、強さと美しさに憧憬の念を抱いた少年の表情そのものだ。記憶の中にある誰かを想いながら、すーちゃんはその事実を口にする。

「あの椿ちゃんって子、ありゃやってくれるよ。なんせあの子の魔力は――」

 視界の先、魔力が大きく強く光り輝き、二人の目には映りもしない半球状の壁が展開される。それは同時に山吹色の少女が放つ魔力の効果を全域に浸透させ、空から降り注ぐ消滅の閃光を完全に打ち消した。

 そんな光景の意味など知りもせず、ただどこか確信を抱きながら、彼は言う。

「――アルケーちゃんと同じ、綺麗な真珠に輝いてるんだからよ」

 うーちゃんとすーちゃんの出番は終了となります。

 割と気に入っているキャラクターです。また登場させたいのですが、出てくるのでしょうか……。

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