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テレフテア・アポカリプス  作者: ほざお
第二章 交戦
166/215

「俺が奴と戦う! 細木はこの距離で支援、大蔵は細木を守れ! 新木、お前は言ったとおり、自由に動けッ!!」

 簡潔な指示だけを飛ばし、須藤は一歩でアルに詰め寄った。その距離、約四メートル。三メートルを越える長大な須藤のシュトラーフェであれば、優に刃の先を届かせられる距離だ。

 須藤の指示を受け、三人もそれぞれの武器を生み出す。大蔵はその身に合った巨大なハンマーを、細木は大きな弓を携え、新木はナイフを生み出した。それぞれが固有の能力を持ったそれらを構え、一気に攻勢に躍り出る。

 ――距離、三メートル。

 確実な交戦距離へと踏み込んだ須藤は、笑みを浮かべて立ち尽くすアルに向かってIEDを振り下ろした。そこに躊躇は一切無く、そんな意思も存在しない。目の前に立って須藤が感じたのは、その身体が人のものではないと言う驚愕の事実だ。あくまでも彼の感覚的な判断に過ぎないが、そこにあるのはただの膨大な魔力の塊である。それが人の形を取り、人のように笑い、人のように話しているのだ。そんなものに手加減できようはずもない。

 不気味だ。今までに無い事態に須藤も多少は焦りを覚えるが、それでもやることは一つだった。

 大鎌を横薙ぎに振るう。それが第一の攻撃。敵との距離、得物を持っていないと言う事実を考えれば、有利なのは須藤の方だ。須藤の方から攻撃を届かせられる距離に、対するアルは何の武器も持ち合わせていない。魔力を発動するには時間的余裕も無い。

 しかし、須藤はそれで終わるなどと楽観視はしていなかった。

(まぁ、避けるだろうな……!)

 アルが空へと舞い上がる。『空』の特性を用いた飛行魔術だが、その安定の度合いは須藤の度肝を抜いている。だが、須藤は動じることなく、自身もまた空に向かって駆け上がった。彼もまた、『空』の特性に特化しているのだ。ただ、これには問題もある。空で戦闘を行うと言うことは、確かな地面の感触が存在せず、この重量級の大鎌を振るうことにいくらかの抵抗が出来てしまう。普段は地に足を着いて腰の一撃を見舞うそれを、彼はこれから空を駆けながら重量を腕の力で支え、攻撃を繰り返さなければならなくなる。これは、須藤にとってはいささか不利と言えた。

 だからこその、コンバーターである。

「へぇ?」

 須藤が空に駆けるよりも、さらに言えばアルが空に向かうよりも先に、その頭上へと舞い上がっていた男がいた。両手にナイフを抱えたその男――新木は、裂帛の気合を放ちながら落下の勢いを伴ってアルへと襲い掛かる。

「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 見上げた先から落ちてくる男を眺め、アルの口元から笑みが消えた。今、彼女は空へと向かって力を使っているほか、土人形を動かし、膨大な魔力を強引に放ち、さらに言えば彼女のマスターを守るための結界を展開している。それでも未だ並々ならぬ魔力がその身を纏っているが、それとは別に同時に使用できる数には限りがあるのだ。マスターの力を受けずに人間的思考で力を操っている彼女には、同時使用できる魔術はそろそろ限界に達している。

(仕方ないわね)

 面倒だが、アルは一つ決断すると、天児の力を消滅させた。しかし、何もただ力を解いたわけではない。彼女の目の前にいる人間と似たような格好をした幾人かのクラティアが土人形に群がっていたのだ。そこに覆いかぶさるように土塊を解放すれば、それはそのまま彼らを押し潰す土砂と化す。

 同時に彼女は、解いた天児の力を今度は自身の周囲へと走らせる。それは先のような巨大な土人形ではない。あれは形成までやや時間がかかる。ゆえに彼女が生み出したのは、眼前に迫りつつある新木を吹き飛ばすための土人形の豪腕だった。

「が……ッ!」

 地面から突如として這い出した土塊の腕が落下体勢にあった新木の身体を無造作に払いのけ、返す刀でアルに接近していた須藤を牽制する。そのせいで好機を奪われる形となった須藤は、一度地面へと降り立った。それに合わせるようにアルも地面へと落下する。そうして再び、彼女の隣から土の腕が現れた。都合二本、それらが彼女を守護するように蠢いている。

(土の腕……『地』の特性の魔術とは思えない。しかし、詠唱を行ったようにも見えなかった……シュトラーフェか?)

 複雑な魔術には、それだけ複雑な理論が要求される。それをただ特性に応じた力を操ることで術として発生させられるクラティアは稀だ。ゆえにクラティア戦闘においては、特性を生かした魔術は単純なものにならざるを得ない。だが、詠唱を用いて理論を構築する古式魔術であれば別となる。それらは複雑な術も可能とするのだ。

 しかし、目の前の腕はそんなものではなかった。その奇妙さから須藤は、その力がシュトラーフェによるものだと当たりをつけるが、それは更なる疑惑を彼に生み落としていく。

(こいつは……なんだ? クラティアの常識を外れている。こいつ自身がシュトラーフェのようにも思えるが……くそ、考えても埒が明かない。今はただ、この戦いに集中するだけだ――)

 須藤は、地面に落下した新木を見やる。かなりの勢いで吹っ飛ばされていたが、平然と立ち上がるその様子を見れば、まだまだ戦えることに疑いは無いだろう。それを確認し、須藤が大鎌を構えた時、何かがアルの周囲へと飛んでいった。矢、それも無数のそれがアルを囲むように飛んでいき、何故かその場所で動きを止める。そんな不可解な光景をアルが訝しむ中、須藤は口元に笑みを浮かべた。この力は、明らかに彼の仲間によるものだ。

 細木、サポーターとしての役割を持つ男のシュトラーフェによる力である。

「少し厄介そうね。マスター、これを教えてくれるかしら?」

 アルが何事かを言っているが、須藤はそれを悠長に待ってやるつもりは無かった。矢が現れた時点ですでに警戒心を捨て、二本の豪腕に守られたアルへと突っ込んでいく。そこに恐れる様子は微塵も無く、アルがそんな彼を一撃の下に叩き伏せようとした時、それは起こった。

 突如、須藤の下へと向けたはずの豪腕が引き寄せられるように矢へと向かっていったのだ。その一撃を受けた矢の一本が消し飛ぶ中で、須藤が一気にアルへと迫る。彼我の距離はすでに大鎌の攻撃半径を優に超え、これをアルが避けることは不可能だった。先のような空への回避ももはや間に合わない。

 ふぅ、とマスターから届くはずだった思考の連絡を諦め、アルは息を吐く。面倒だが、近接戦に付き合ってやらねばならないようだ。

「その鎌、見た目だけなら私に似合いそうね」

 そんなことを嘯きながら、須藤の振るう大鎌の一撃に対し、アルは両手を伸ばして受け止めた。だが、強い。人間を遥かに超える力を持つはずの彼女がその一撃にわずかに圧されてしまう。その事実に初めてアルは口元に笑みを浮かべる。目の前の敵を隈なく見定め、その賞賛に値する一撃を正当に評価する。

「あなた、相当強いわね?」

「ふんッ!」

 答える声は、さらに力を増した大鎌による一撃だった。しかし、今度はアルも圧されることはなかった。先は油断して力を弱めていたが、全力を出してしまえば、なんてことは無い。ただの人間の身体強化では、アルと打ち合うにはいささかパワー不足なのだ。それを須藤も理解し、一気に大鎌を引いて距離を取る。力技を防がれたと言う事態は彼にとって驚くべきものだが、ムキになって戦ってもいられない。そろそろ須藤たちの出番もお終いだ。

『須藤さん! 来ます!』

 頭の中で響く細木の言葉に頷き、さらに須藤は距離を取る。その様子を不思議そうに見つめるアルの頭上に、それは一瞬にして落ちた。

 それは、巨大な鉄の砲弾だ。それが何度何度も空から降り注ぎ、アルの身体に叩きつけられる。

 須藤は、その発生源となる空を見上げた。そこには、飛行魔術で空へと浮かんでいるSKAT隊員の姿がある。その手に巨大な大筒を抱え、そこから何度と無く砲弾が重力に任せて放たれていく。豪快さと威力の伴ったそのシュトラーフェは、SKATの中でも随一のアタッカーの持つ攻撃性に特化したものだ。ただし、水平に飛ばすことが出来ない、と言う最大の難点はある。だが、こうして須藤たちが動きを足止めし、その隙に敵の頭上にさえ届くことが出来れば、後はその力の独壇場だった。

 何度も連続して砲口が火を噴き、そこから半径二十センチはあろうかという巨大な弾丸が放たれる。それが地面に激突するたびに近くにいた須藤の足元が揺れ、彼は慌てて距離を取った。十分に離れたつもりだったが、それでもまだ足りなかったらしい。

「相っ変わらずすげぇ威力だな」

 気づけば、須藤はいつの間にか大蔵たちのところにまで戻ってきていた。隣から聞こえてきた彼の感心するような声に須藤も、心の中で同意する。一発だけなら、さしたる脅威ではないだろう。だが、あの大砲のようなシュトラーフェは、連続して何度も撃ちだすことが出来るのだ。その一撃を受ければ、如何なあの化け物とて無事では済むまい。

 そう思い、見据えた先で――黒喰の魔力が瞬いた。

「あらあら。力任せの一撃なんて芸が無いわね。そう言うのはもう持っているわ。私の叡智には相応しくない」

 砲弾によって巻き上がった土煙を振り払い、そこから立ち上る魔力が炎と化し、上空にいたSKAT隊員を焼き尽くす。その残骸が一直線に落下する中、それを土塊の豪腕によって振り払い、無傷のアルが姿を現した。その身体も、纏ったローブの何一つ、まるで傷が無い。あれほどの砲弾の雨を受けていながら、彼女は平然とそこにあった。

 さしもの須藤も冷や汗を浮かべる。隣の大蔵も珍しく後ずさっていた。須藤の視界の先では、新木が目を見開いているのも見える。驚愕と恐怖の入り混じったその表情は、須藤の心情すらも端的に表していた。

 名前持ちキャラクターが多いので、再確認を。

 須藤・・・SKATのアタッカー。無口気味の男。

 大蔵・・・ディフェンダー。大柄で、大雑把。

 細木・・・サポーター。几帳面、真面目。

 新木・・・コンバーター。緩い雰囲気、新人なのであまり余裕はない。

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