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テレフテア・アポカリプス  作者: ほざお
第四章 解放の鬨
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 そう、正体はそれなのだが、それを暴いた俺自身信じられない。リアムのシュトラーフェに引力や斥力の操作は出来ても、角度や方向を自由に扱う力は無い。つまりリアムは、それら全てを計算した上で射角も確認せずに銃弾を放ち、その力で弾丸の再利用をしてみせた。それだけではない。秒速四百メートルを超える弾丸にかける引力と斥力を途中で切り替えると言う芸当。どれほどの魔力制御能力があれば、そんな真似が出来るのか。

「化け物、ってわけね」

「失礼だな。今のはちょっとした手品、小細工さ。そもそも一度地面と激突して歪んだ弾丸に大した威力なんて期待できないよ。形が潰れているせいで空気抵抗を大きく受けるから安定して距離も飛ばないしね」

 だが、あの距離で目の前のリアムだけではなく、地面に散らばった弾丸の反発による攻撃まで警戒しなければいけないと言う事実は変わらない。そして撃てば撃つほど、それを塞げば塞ぐほどリアムの手数は増えていく。それがリアムの近接戦闘法、剣や刀などの近接武器との相性差を、手数と四方八方からの攻撃によってカバーする。

 カティさん、気をつけてくれ。俺の情報でも読み切れないかもしれない。

 そう意思を送れば、カティさんもさすがに表情を固くしながら、それでも強く頷く。切迫はしていても気合は十分。まだ、勝つ道はある。それに一つ、証明もされた。威力に欠ける地面からの反発弾は、カティさんの炎の壁で十分防ぐことが出来る。となれば警戒すべきはただ一つ。

「リプルシオン・ブレットを最も気をつけろ、かな?」

「なっ!? まさか……聞こえてるの?」

「いや、僕には彼の声は聞こえていないよ。ただ、何らかの方法で連絡を取り合っているだろう、とは予測できる。そうでなければ、君が途轍もなく強くて賢い女の子になってしまうからね」

「それ……どういう意味かしら?」

「うん、だって――」

 待て待て、カティさん。リアムの言葉を真に受けるな。どう考えてもただの挑発――

「君、とっても馬鹿っぽいから」

「“爆轟の奏歌(アオス・ブルフ)”!」

 って馬鹿かっ!! 真っ向から攻めてどうする!? あいつの周りにはまだ弾丸が散らばってるんだ! 距離を測りつつ、位置を変えて――

「誰が馬鹿よッ!!」

 リアムと、それから俺にも向けて叫び、眉を怒らせながらカティさんは剣を振るう。その細身の剣の特性を活かし、地面を砕かんばかりの踏み込みと共に放れたのは、怒涛の刺突だ。それを眺め、しかしリアムは余裕な表情を崩さない。それどころかカティさんに向けて銃を構え、それを放つことで後方に逃れてみせた。弾丸の斥力を利用した瞬間的高速移動、ハイド。そしてそれは、同時にカティさんへの攻撃として機能する。だが、そのただの弾丸はカティさんの剣先から迸った炎によってあえなく弾かれ、距離を取られたカティさんは剣を振るう手を緩めると、地を蹴ってさらに距離を詰める。結果的にはこれで弾丸の着弾地点からは離れることとなったわけだが、無鉄砲に過ぎる。敵は、剣を真っ向から振るって戦うような相手ではない。剣士を相手にする戦い方が通じるわけではないのだ。

 とはいえ、これらの思考を送っているにもかかわらず、通じているようにも見えない。馬鹿呼ばわりされて沸点が飛んだことも分かるが、カティさんとはこんなにもあっさりと怒る女の子だっただろうか。興奮すれば見境が無いが――いや、違う。走る直前、カティさんは俺の方を見て笑んだ。その意味を考えろ。

 迫るカティさんに向け、次にリアムは、三方向にクイックドロウで弾丸を放つ。ちょうどカティさんの身体の両側を通るように一発ずつとカティさん本人を狙うように一発だ。両側の弾丸は、途中でカティさんを狙うように放れた一発に引き寄せられ、急激に向きを変える。その応用は中々の技だが、俺と組んだカティさんには通用しなかった。弾丸を撃つ前から、途中での引力操作の魔力制御はすでに記述として表れている。

 自身を襲う三方向からの弾丸を何なく炎によって弾き飛ばし、さらに距離を取ろうとするリアムへと斬りかかる。その怒りに任せた振る舞いは、しかし実のところは違う。カティさんは、怒った振りをしながら誘っているのだ。リアムの技、リプルシオン・ブレットを。

 まさか、カティさん、真っ向からあれとやり合うつもりか……!?

 信じられないが、そうとしか考えられない。今、カティさんはリアムの技を誘っている。それにおそらく、リアムも気づいている。

 確かにリプルシオン・ブレットを引き出させることは大きな意味を持つ。あの斥力反発による高速弾は、同時にリアム自身へと迫る諸刃の剣だ。リアムがこれを近距離で使う場合、銃弾を撃った直後に瞬間的に再度弾丸を放って自身へと返る一撃を弾くか、回避体勢に入らないといけない弱点がある。ある程度の距離であれば、相手へと到達する直前を狙って加速することで、自身へと返る前に弾丸の勢いを殺し切る距離を稼ぐことが出来るが、相手との距離が近ければ近いほどこれは使うことが難しくなる。そのことに気付いた上でカティさんは、リアムに迫るのだ。使えるものなら使って見せろと、声には出さず挑発している。

 ふざけた女の子だ。あんな危険な代物に恐れを抱くどころか弱点を見抜き、相手と勝負の駆け引きにまで持ち込んでいる。しかし、やはり強い。クラティア・コロッセオにおいて俺という識者がいたとは言え、最後の最後までグラディアートルであるエドガーと渡り合い、打ち破ったその実力。生半可なものでは決して無い。

「面白い」

 その覚悟を受け、リアムもまた応じるように銃を水平線上に構える。あの一分のブレもない直線の構え。間違いない。リプルシオン・ブレットが来る。しかし、リアムはどうするつもりだ。カティさんとの距離はすでに一メートルに迫ろうかとしている。そこであんな技を放てば、自身にも弾丸が返ってくるはずだ。弾丸を三発同時に撃って、先頭と中間部で斥力反発を、最後尾に引力を働かせるのだろうか。だが、これは著しく先頭の弾丸の威力を殺ぎかねない。

「良いことを教えよう。僕は両手持ちだ」

 まさか――

「逃げろ、カティさん!!」

 その瞬間、リアムは構えを突如として変えた。左手に持った銃の銃身と右手に持った銃の銃身の頭の部分を重ねるように合わせ、同時に引き金を引いたのだ。それによって銃声が響き渡り、それに応じるようにカティさんが一気に輝きを増した緋色の炎を纏う。あれが一番、カティさんの出せる最高密度の魔力でコーティングされた炎なのだろう。それでもってリアムのリプルシオン・ブレットを封じる算段なのだろうが、違う。リアムの目的はそこに無い。

 突如、リアムの同時に放った二つの弾丸がその引力を強め、徐々にそれは互いに混じり、押しつぶし、力を振り絞って互いに互いを食らい合う。そのままなら、ただ圧縮して押し潰しているだけだ。威力は極端に減り、これではカティさんの炎の壁は破れない。だが、もしこのエネルギーが外に向かえばどうなる? 圧縮して威力を内側に溜め込んだ二つのエネルギーのベクトルが、突如として外へ向いたら。

 その結果は、予想するまでも無く、目の前で巻き起こった。圧縮されたエネルギーの解放は時を待たずして行われ、莫大な斥力によってリアムは後方へと自然と吹き飛んでいく。その中で、炎の壁を使って弾丸を防ごうとしたカティさんは、左右どころか四方へ砕け散った二つの弾丸の破片、それに伴う爆発的なエネルギーの波濤(はとう)によって炎の壁ごと吹き飛ばされた。

「カティさん……ッ!?」

 カティさんの身体が宙を舞う。極限にまで圧縮されたエネルギーの解放は、それを妨げようとした炎を一瞬にして弾き飛ばし、生み出された衝撃波がカティさんの身体を襲ったのだ。その威力は、数メートルでは聞かない距離を飛んだカティさんを見れば分かる。その身体から弾丸の破片によって無数の血を流しながら、遅れて地面に激突する姿は、見ていられないほどに悲惨なものだ。

 轟音が木霊するその中で、搾り出すように告げる少女の声が響く。

「……解放の鬨リベレイト・スレイブス。リアム……こんな技まで……」

 それは、意識を失っていたはずのセリアだった。彼女は、俺に抱かれていることも気づかないのか、虚ろな声でそんな呟きを漏らしている。

 リベレイト・スレイブス――奴隷の解放、だと。その意味するところは、まるで――いや、駄目だ。考えるな。そんなことに気を回している余裕は無い。俺はこいつらを倒す。そのためにここにいるんだ。今はそれよりも、カティさんだ。あれほどの技を受けて、カティさんは無事なのだろうか。それにカティさんだけじゃない。あれほどの斥力の暴力によってリアムもまた、尋常でない距離を吹き飛ばされている。その際に身体にかかる力や、着地の衝撃は、リアムにもまた大きな傷を負わせたはずだ。そのダメージは、リプルシオン・ブレットで負うかもしれなかったダメージを超えているかもしれない。

 だからこそ、疑問に思う。何故、それほどの技を使ったのか。

「簡単さ。咄嗟に後ろに向けて弾丸を放てば、その威力を殺すことは難しくない。斥力によって身体にかかる力に意識を持ったまま耐えられれば、だけどね」

 不意に背後で声がした。振り返れば、そこにはいつの間にかリアムが立っている。その唇からわずかに滲んだ血は、急速に身体を襲った力によるものか。あるいは、破片のいくつかが斥力の壁を超えて飛んできたのか。どちらにしろ、今、俺は知らずのうちにリアムに背後を取られた。先の現象とカティさんに気を取られ、まるで意識を傾けていなかったのが原因だ。

 しまった、と俺はそう思った。その時、確実にその銃口は俺を向いていると恐怖した。だが、振り返った先にいたリアムは、拳銃を構えず、起き上がったセリアの頭を撫でると、一言だけこう口にする。

「必ず守るから」

 それだけを言い、リアムは俺を一目見ただけで何もせずに去っていく。その先にいるのは、傷だらけの状態でありながら身体を起こすカティさんの姿だった。身に着けた制服はところどころ破れ、覗いた白い素肌からは幾筋も血が流れている。鉄同士の激突が生み出した摩擦熱で高温と化していた弾丸の破片を顔に浴びたのか、綺麗な顔立ちに火傷まで負い、片目を閉じた傷だらけの状況でありながら、それでも彼女は立ち上がっていた。

 止めろ、とそう言いそうになる。そのあまりの様子に、もう戦うな、と言いそうになる。そんな俺の心の声を聞いて、カティさんはか細く微笑んだ。

「リーシャのこと、どうするつもり?」

「――――ああ」

 そうだ。俺たちの最も優先すべきは、リーシャだ。彼女を守るために、どんな敵であろうと、自分の命であろうと何であろうと懸けてやると心に決めた。それをただの浅はかなガキの蛮勇で終わらせてなるものか。こんなところで、大切な何もかも全て、失ってたまるか。

 だから、俺は命じる。この距離、この立ち位置、この場所で――構わず使えとカティさんに命じる。

 それを受け、カティさんは頷いた。目を閉じ、微かに身体を震わせて、しっかりと頷いた。

「な、ちょ――ッ!?」

 俺は腕の中に抱いたセリアを抱きすくめ、地面に押し倒す。その焦ったような抗議の声を黙殺し、しっかりと彼女の身体を覆って地面に身を伏せると、同時にセリアの口元に制服の裾を無理矢理噛ませて黙らせる。そのことに抵抗しようとする彼女の全てを押さえ付け、俺は叫んだ。

「今だッ!!」

 俺が叫ぶのとほぼ同時、再びの爆轟が轟き、大爆発が生み落とされた。

 文章中では分かりにくいかもしれませんが、解放の鬨リベレイト・スレイブスも限定空間におけるかなりの大爆発です。

 割とカティさん、大怪我です。

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