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1-2

 アリーシャ・ローヴェレは嫌われ者だった。

 王立ウェルチ魔法学院中等部二年生。魔法の名門ローヴェレ伯爵家に生まれた彼女は、十四にして傲慢な自信家だった。

 自分より成績の悪い者すべてを見下し、自分よりも成績の良い者は妬んだ。家柄、容姿、性格、なにかにつけて人にケチをつけ、とにかく自分よりも下に置きたがった。

 彼女が唯一認めるのは、五つ年上の彼女の兄一人だけ。それ以外はすべて彼女にとっての劣等生で、落ちこぼれだった。


 だが、真に落ちこぼれと蔑まれていたのは、彼女の方である。

 ローヴェレ家なら誰もが授かる精霊の加護を十四になってもひとつも持てず、魔法の才も人並みしかない。なにかにつけて成績を持ち出す割に、その成績も良くてせいぜい十位以内。平民の子なら褒められた成績かもしれないが、魔法の名門ローヴェレ家にあっては失笑ものである。

 特に、彼女の兄であるエラルド・ローヴェレの存在は、彼女の劣等生を際立たせた。

 百年に一人の逸材と呼ばれ、十九の年で五体の精霊の加護を持つ天才児。ウェルチ魔法学院を首席で卒業すると同時に王宮魔導師に抜擢され、たった一年で魔導兵長に就任した彼の名を知らぬ者はいない。

 エラルドが天から与えられたのは、魔法のみではない。見たものを一目で虜にするような美しい容姿。常に一歩先まで考える、思慮深い性格。時に大胆で、恐れ知らずなその勇気。全てを兼ね備えているからこその天才なのだ。

 アリーシャは、何ひとつエラルドと同じものを与えられなかった。魔法の才からその容姿に至るまで、なにもかもが凡庸極まりない。その癖、自分は兄と同じことが出来ると思い込む、哀れなほどの傲慢さだけがあった。

 アリーシャの両親は、そんな彼女のに期待を寄せることを止め、ただ甘やかすことに終始した。それがますますアリーシャの根拠のない自信を増大させてしまったのだ。


 アリーシャ・ローヴェレはなるべくしてなった、正真正銘の嫌われ者である。彼女を好きな人間など学院には一人もいない。彼女と共に行動をしている人間がいるならば、それは伯爵家の名前に怯えた者に他ならない。

 甘やかされ放題の伯爵令嬢。出来損ないの劣等生。学院の誰もが彼女を遠巻きにし、関わりを持ちたがらない。


 それが私への評価だったはずだ。


 ○


 目が覚めるとベッドの上だった。

 そう言えば、地下迷宮で全滅したんだっけ。と遅まきながら思い出す。十層まではどうにかたどり着いたものの、回復薬が切れてしまい、戻ろうか進もうかというところでチームの他のメンバーと喧嘩になったはずだ。

 そこへ来て、地魚の群れが襲い掛かってきたのだ。壁から染み出す地中の魚の強襲に、チームは散り散りになり、私一人残されて――。

 それで今の惨状か。

 ――情けない。これでまた成績が落ちる。

 頭を抑えつつ、うんざりと半身を起こした時、少し違和感があった。

 医務室ではない。自室だろうか? 壁や天井はそれらしいが、調度類が異なっている。それに、どうして学院付属ダンジョンで倒れたのに、自宅に戻ってきているのだろう? 帰るとしてもせいぜい寮の自分の部屋ではないのだろうか?

 頭いっぱいに混乱がはびこり始めたその時、さらなる混乱が部屋の扉を破ってきた。

「アリーシャ! アリーシャ、大丈夫!?」

 扉を破らんばかりの勢いで入り込んできたのは、見覚えがあるような、ないような若い男女だった。ウェルチ魔法学院の高等部生だろう。学院指定の野暮ったい制服に、高等部生の証である緑のブローチを付けている。

「アリーシャ! 目覚めてよかった! みんな心配していたのよ!」

 一番に部屋に飛び込み、ベッドの傍に駆け寄ってきたのは、長い三つ編みを垂らしたなんとも既視感のある容姿の女だった。

 おどおどとした目つき。大人しそうで優等生らしい顔立ち。なんだか記憶に引っかかるその姿を、思わず凝視してしまう。

 ――……フラミー? を、少し大人にしたらこうなるような……。姉妹かしら。でも、アリーシャなんて呼び捨てにされる筋合いは……。

「アリーシャ? どうしたの?」

 呆ける私に、フラミーに似た誰かが呼びかける。

「もしかして、まだ頭がぼうっとしてる? ……仕方ないことだわ、魔王を倒した直後だもの。生きていられただけでも奇跡よ。これもあなたの精霊たちのおかげね」

「は?」

「でもびっくりしたわ。あなたが本当は別世界の生まれ変わりだったなんて! 世界を救うために、アリーシャとなって生まれ変わって来たなんて、聞いた時はどうしようかと思ったわ」

「え?」

「三年前に地魚に襲われたときに、前世の記憶を取り戻したんですってね。あの時以降ずいぶんと性格が変わったから、どうしたんだろうとは思っていたのよ。でもまさか、魔王を倒すために記憶を取り戻していたなんて」

「む?」

「いやね、こんな時に話すことじゃなかったわ、ごめんなさい。さ、早く頭をすっきりさせて。会いに行かないといけない人がいるでしょう? あなたの――――恋人よ」

 は?


「はああああああああ!?」


 恋人。前世。魔王。三年前?

 こいつ頭おかしいんじゃないの。

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