西の巫女と怠惰な守護者3
何か嫌な予感がするが、まぁ牢屋から出してもらえただけでもよかっただろう。
客らしく客間を使わせてもらえているし…だがなぜアレクと同室なのか?
「主らは番なのだろう」
そういう陣に猛烈に反発してしまったのはしょうがなかったと思う。
その様子を眺めながらベッドでにやにやするアレクにも一発腹パンを決めておいた。
陣が出ていくとアレクは口を開いた。
「それにしても巫女の社だっていうのにここはほとんど結界に力がないな。代替わりが近いとここまで力を失くすのか?」
「ってことは魔物が襲ってくる可能性も高いと!」
「まぁこの西地域は格段魔物が多いからな。夜歩いたらひとたまりもないんじゃないか?」
「ならもう寝る!!」
「俺が添い寝してやんよ」
そういってアレクが寝そべっていたベッドの上から両手を出して誘ってくる。
この部屋にはベッドは一つしかない。
けっきょくのところは奴をベッドからけり落としソフィアがベッドの住人になったわけである。
「覚えていろよ、この俺様にこの仕打ち」などとほざく声もしたような気がしたが疲れた体は睡魔に負けた。
やっと牢屋から出れたというのに二人はソフィアはそっちのけで話を進めていく。
そして利害が一致したのか黒い笑顔を見せるアレクにソフィアは身震いした。
「陣殿!」
その声で物思いにふけていた陣ははっと周囲を見渡した。
周囲はもう魔物に囲まれているようだ。
「本当に増えましたね、魔物も」
「これじゃあ巫女様も…」
「おいおい俺たちの巫女様が最後まで仕事をこなせるようにするのが俺たち騎士の役目だろう」
魔物に囲まれているというのに自分たちが守る巫女を守ろうとする若い守護者たちに陣は目を向けた。
巫女は彼らにも姿を現したことがないというのにその忠誠心は西地域ならればだ。
魔物が多い朱であるからこそ守り人の巫女はだれよりも信頼される。
たとえ姿を現していなくても守っていればそれでいいのだ…
陣はあの巫女の姿を思い浮かべる。
怠惰の守護者と言われる自分の主。
450年の在位をもうすぐで終わらせる巫女。
あのか細い体でこの朱を守る巫女…
「さっさと終わってしまえばいいものを…」
陣のつぶやきはだれの耳にも届かなかった。
怠惰の守護者と言われても朱を守ることが陣の仕事だ。
だから今宵も人知れず闇に潜む魔物を狩る。