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月曜日の神様

作者: ミドサキ

 月曜日の神様




 ここは人間界の天井と宇宙の間にある空間。

 天界である。


「おい、今日は月曜日の神様、お前の番だぞ」


 木曜日の神様が呆れたように言う。


「えー、だって僕が行くと人間のみんなが嫌がるんですよー」


 月曜日の神様は毎週こんな感じである。天界の神様達も困ったものだ。


「まぁまぁ、このゲームが終わった後でも間に合うでしょう」


 土曜日の神様がなだめるように言う。


「さすが土曜日の神様!今回こそは僕が勝ちますよ!」

 


 此処は天界。日本担当区の三丁目だ。

 七人の神様が日替わりで人々に曜日を与えていた。

 そして、残った六人の神様は人生ゲームを楽しんでいる。



 カラカラカラと安っぽいルーレットの器が廻る。プラスチック製で少し黄ばんでいた。


「いんやー、なんでまた月曜日の神様だけが人間に嫌がられるんだが」


 少しなまりながら金曜日の神様が呟く。


「休み明けだからじゃないかしら?ほら、これからまた土曜日の休みまでがんばると思うと、苦しいじゃない。私は人間じゃないから理解できないけどね」


 優雅に水曜日の神様が答える。


「月曜日の神様には敵わないが、俺もなかなか嫌われものさ。空気が薄いとよく言われてるよ……きっと俺は中途半端なのさ、曜日としても神様としてもよぉ」


 ネガティブに火曜日の神様が嘆いた。


「――はぁ」


 そして、最後は月曜日の神様のため息である。




 人生ゲームは接戦だったが、計画的に就職し家族をつくった木曜日の神様がゴールに一番乗りだった。


「月曜日の神様、やっぱり正確さがすべてだ。だから今日は仕事に勤しめ」


 こうして月曜日の神様は、今週も嫌々人間界に送り出された。




 そして変わることのない週が続き、一年間くらいの時間がすぎた。

 今日から人間界ではゴールデンウィークだ。

 日本担当区三丁目では一年に一回、七人全員集まって行われる『七曜神会議』が行われていた。


「うーっす、んじゃ…七曜神会議を始める」


 気だるそうに日曜日の神様がこの場を仕切る。


「今年はなにか話し合うことでもあったでしょうか?」


 今までの会議でも、ずっとまともに話し合ったことがなかった。だから土曜日の神様の意見も、もっともである。

 日曜日の神様がそれぞれの神様に意見を求めるかのように見渡す。

 みんなが視線を逸らす中、神様達がぐるりと囲んで座っているちゃぶ台を叩く神が居た。



 月曜日の神様だ。



「提案があります!」


 乾いた音を立てながら、勢いよく立ちあがった月曜日の神様が宣言する。


「僕、月曜日いらないと思うんですよね!」


 六人の神様の中でざわめきが起こる。会議の内容が決まるのも珍しいのに、この宣言であるからだ。


「おい、月曜日の神様っ!お前は天神様を逆らって、ニート神になるつもりか!?」


 サボりを許さない、しっかり者の木曜日の神様が声を荒げる。


「ちっ違いますって!一度月曜日をなくしてみて、人間界がどうなるか見てみたいんですよ!」


「様子を見てみるってこと?そんな事しなくても、月曜日は月曜日で必要に決まってるじゃない」


 水曜日の神様が月刊ファッション誌『ゴッドのお召し物』を見ながら反論する。


「いんやー、月曜日の神様も嫌われてるだげじゃないんだと思うんだどもなぁ」


 玉露茶を啜りながら、金曜日の神様も反論。どうやら、古くからの伝統を変えるのが面倒くさいらしい。

 もう一度、月曜日の神様がちゃぶ台を叩いて神様達の視線を集める。

 ちゃぶ台は年季が入っていて、叩くたびに悲鳴を上げる。


「お願いですっ!僕が居なかったら、人間界がどうなるか一度でいいから見てみたいんですよ!このとおりですっ!」


 そう言って、月曜日の神様はちゃぶ台に頭を叩きつけた。

 生まれて初めての土下座だった。


「――まぁ、いいんじゃないでしょうか?一度くらい」


「俺も一度見てみてぇな。俺の存在価値もわかるかもしれないしよぉ…」


 土曜日の神様と火曜日の神様が月曜日の神様の意見に賛同する。

 それは、神様が初めて他神の意見を尊重した瞬間だった。

 ただただ、古い伝統に縛られ続けていた天界に、差し込んだ光でもあった。


「いや、しかし……ぐぬぬ。しょうがないな、土曜日の神様も言ってるからだ。月曜日の神様、特別だぞ。私も賛成する」


「私はやっても意味ないと思うけどなー。でも、月曜日の神様が試してみたいのならいいんじゃないかしら?」


「よぐわがんないげども、みんながいいのなら賛成するべさ」


 最初は渋っていた木曜日と水曜日と金曜日の神様も意見を変える。

 すると、土下座しっぱなしだった月曜日の神様が顔をパァっと明るくして飛び跳ねる。


「――みんなっ、ありがとうございます!僕、なんて言ったらいいか……」


 そして月曜日の神様は生まれて初めての嬉しさに、ちゃぶ台の周りをぐるぐる回り始める。

 それを見ながら、日曜日の神様が肩をすくめて他の神様に呼び掛ける。


「勝手に来週の月曜日を休みにしやがって……面倒だ。それじゃあ、七曜神会議をこれで終わる!」


 そうして、だらけきった神々はちりぢりに解散していった。



 そして一週間が経ち、月曜日だったはずの日が人間界に訪れる。

 七人の神様が固唾を飲んで見守る中、人間達は平然と何曜日でもない日を過ごしていた。

 いや、いつもの月曜日と違うのとすれば、誰も文句ひとつ溢さずに仕事や学業に励んでいることだ。いつもの月曜日なら人間達は面倒だと文句を垂れ流す日のはずなのに。


「僕がいないほうが……いいんですかね」


 当然、人間界を見下ろしていた月曜日の神様はショックを受けフラフラとしていた。


「やっぱり、俺達は一介の底辺神様でしかねぇんだよぉ……鬱だ、どうせ火曜日も必要ないに違いねぇ…俺なんてよぉ…」


 何曜日でもない日の現状を見て、火曜日の神様のテンションも大幅に下落する。他の神様も同じように落胆していた。

 月曜日の神様は人間界を見るのを止め、日曜日の神様に視線を送る。


「日曜日の神様……僕っ、やっぱりこの神様やめますっ!ニート神になってやるううううう!」


 そう言って、月曜日の神様は地面を蹴って遠くへ走り去ってしまった。


「おいっ!月曜日の神様っ!貴様っ、神様として恥ずかしくないのかああ!」


「糞めんどくさいなぁ……月曜日の神様をやりたい奴なんて、五万といるのにねぇ…」


 木曜日の神様と日曜日の神様の声は届くはずもなかった。


 そして、その週の日曜日に時は進む。

 火曜日からは再び神様が人間界に出向き、人々に週を与えていた。

 しかし、今週はどうもおかしいのだ。そして今は、残っている神様が臨時会議を初めていたところだった。


「月曜日の神様の姿はまだ見えないのですか?」


「はい、私がいろんな所を探しているのですが…どうも見つかりません」


 あれから月曜日の神様の姿は見えなくなり、日曜日の神様と木曜日の神様は頭を悩ませていた。


「それより、今週の異変について話し合うんじゃなかったのかしら?」


「そうだべ、今週はなんでがわがんねげども、人々が土曜日をだのしみにしてながっだんだべよ」


 水曜日の神様と金曜日の神様が立て続けに喋る。金曜日の神様のなまりが今日は一段と強く、土曜日の神様が一テンポ置いた後にようやく理解する。


「そうですね。昨日の土曜日も変でした……人間の皆さんが楽しんでいないと言えばいいのでしょうか…生気がなくて、まるで人形のようでした」


 それぞれの神様が思い当たるふしがあるらしく、考え込む。

 ちゃぶ台を中心にゆっくりと時間が流れる。

 しばらくしてから、一つのため息が静寂を破った。

 水曜日の神様だ。雑誌を読む手を止め、口を動かし始める。


「みんな、心の中ではわかっているんじゃないの?この異変な人間界の空気は、月曜日が無かったせいよ。月曜日にあったはずの不満が無かった分、金曜日から土曜日の喜びや楽しみが無くなってしまった。……他にも、いろいろな感情も消えてしまったわ」


「そんなことは、誰でもわかっている……」


 今まで何も言わなかった火曜日の神様が、わなわなと声を震えさせながら呟く。

 そして、大きく振りかぶって、ちゃぶ台を叩く。


 火曜日の神様の荒げ声と共に、ボロボロのちゃぶ台に亀裂が入る。


「じゃあ俺達はどうしたら良かったんだよぉ!せっかく勇気を出して、変わろうとした月曜日の神様は完全に間違っていたのかよぉ!?俺達は今まで通り、この七曜の神々のままで良いのか分からなくて怖くてしかたがねぇ!変わろうとしたけど、やっぱり間違ってたと思い、恐れているんだよ!なぁ、水曜日の神様ぁ…俺は……どうしたらいいんだよぉ…」


 火曜日の神様はちゃぶ台に拳を振るうのを止めない、ついにちゃぶ台は壊れてしまった。


「なぁ…火曜日の神様。変わることは危険だし、過ちを犯すことが多い」


 木曜日の神様がボロボロのちゃぶ台を横目で見て、比喩を含むように言う。

 火曜日の神様は、拳を振るうのを止め、こぼれてくる涙を手で拭う。


「だが、変わらないほうが危険だ。それにずっとすがっていると、いつの間にかそれはボロボロになっていて…気付いたら壊れている。だから、月曜日の神様がした事は大きい変化だ。私達のやっていることは変わらんかもしれんが、この仕事に対する思いはそれぞれの神々が変わったはずなのだ」


 土曜日の神様がほほ笑む。


「確かに、私達は変わりましたね。月曜日の神様を思いやり、自分の仕事に意義を問いかけ、人間界をこれほどに想ったことがあったでしょうか」


 金曜日の神様も白い歯を出して大きく笑う。


「そうだべ!助けあうこども大切だって、気づかされたんだべよ!」


 水曜日の神様が立ち上がって、火曜日の神様に手を差し伸べる。


「ねぇ、やるべきことは分かってるでしょうね?さぁ!月曜日の神様を迎えに行くわよ!」




 そして、次の週の月曜日が来る。

 なんとか月曜日の神様を見つける事ができた神々は、ほっと一息ついていた。


「いやだー!俺は、月曜日の神様なんてやめてやるんだよぉおおおお!」


「何回言ったら分かるの!人間達には月曜日も必要だし、あんたも必要なのよ!」


「えぇい、耳と目を全開にして、月曜日の人間共を見て来い!」


 そう言って、水曜日の神様と木曜日の神様は無理やり月曜日の神様を人間界へと送り出した。




『あー、今日からまた月曜日だよ。だるいなぁーめんどくさいなぁー』

『今日から仕事だ…課長にまた頭下げなきゃいけないのかぁ……はぁ』

 


「ほら、やっぱり月曜日なんて……」

 



『火曜日は彼女とデートだ!月曜なんて乗り切ってやる!』

『なんか、月曜日久しぶりな気がするな……今日の授業は楽だから、寝ないで頑張ってみるかなぁ』




「……あれ?」



 月曜日の神様は初めて気づいた。

 月曜日が人間のがんばりの種となっていることに、がんばれることで喜びがあることに。


「なんだ…月曜日、大切じゃないかっ」


 月曜日の神様がニヤニヤと笑いながら呟く。


「あれっ……でも、結局僕、憎まれ役じゃないかっ!?」


 確かに、月曜日の神様は憎まれ役だった。でも、それだけではない。


「くそぉおお!金曜日から土曜日の神様の奴ぅ!おいしい所持って行きやがって!」



 そう叫びながらも、月曜日の神様はこれからも人間の愚痴を聞いてやろうと思った。

 彼が自ら変わり、そう思えるようになったのだ

 



 そして、来週も再来週も10年後も100年後も月曜日はやって来る。

 月曜日の神様が、人間界に嫌々愚痴を聞きに。



 ――END

初めて最後まで書いた短編です。月曜日が嫌な気持ちはどこへ向かっているのか考えながら書きました。誤字脱字報告、感想等があると凄くうれしいです。

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