目覚める刃
突如として魔術寮を襲った悲劇。それは人間という種への警鐘だったのかもしれません……。
知らぬ間に大自然の怒りを買ったらしい僕は、みのむしよろしく蔓に拘束されてナチュラルに絶叫マシン体験コースを実施中。
絶景かな。ダロ=ヴェルマーです。
僕視点で豆粒と化した級長さんが、カルメルくんから怪しげな機材を受け取って“付箋”に預けます。何やら取っ手をくるくる回して……?
拡声器のようです。
「「…るマーの杖? あれならアーチスが落札したぞ。うむ……スペンサとの競りが白熱してな……最後にモノを言うのは経済力ということだ。……なに? マイクが入ってる? ばかもの。それを先に言わんか」」
クラスの恥を全校に晒した級長さんは、気を取り直して交渉に入ります。
「「あー。そこのデカブツ。悪いことは言わん、人質を解放して土へ還れ」」
死ねと言っているのと同じです。
「「む? 誰かと思えばヴェルマーではないか。私との約束をすっぽかして、そんなところで何をしている?」」
見て分かりませんか。囚われの身と化しているんです。
「「お前は、いつもそうだな。なんでも一人で解決しようとする。仮にも将来を誓い合った仲だろうに……」」
誓った覚えはありませんし、一人になりたいときもあるんです。
「「言い訳だな。しかし私は見捨てない。スィズ=ネル、スィズ=ネルをよろしく」」
交渉とは名ばかりの選挙活動に身を投じる級長さん。
何事かと西棟の窓から身を乗り出す生徒達。……こんにちは。
「ヴェ、ヴェルマー先輩……」
「しっ、目を合わせるな! ドナさんにニラまれたらコトだぞ……!」
「……あ、なんでもないです。コッチの話でして……ええ」
その中には、得体の知れない薬品を生成中の勇者さんのお姿もありました。
「…………」
ひと睨みでクラスメイト達を押しのけた勇者さんは、てくてくと窓際まで歩み寄ってきて、第一声、
「触手なの……そう」
静かに切り出しました。
「……まだ隠し持ってたんだ。マンドラゴラ」
……貧乏性でして。ええ。
自白を余儀なくされた僕は、天を衝くほど立派に成長したマンドラゴラを見上げます。貪欲に光合成し続ける姿には感銘すら覚えます。
裏の畑で自我を獲得するとは予想外でしたが……。
「どうして、あたしの言いつけを守らないの」
それが人情というものです。
「……あの女の言うことには素直に従うくせに……」
そう低い声で呟いて、勇者さんはぞろりと星の剣を抜き放ちました。
無駄ですよ。たしかに精霊の宝剣は魔素の連結を分解する力を備えてますが、僕のマンドラゴラはどういう訳か“賢者の石”を搭載しているようですから。
要するに生産限定モデルと同じです。如何な勇者さんといえど、永久機関を内蔵する魔物さんを倒すことはできません。
年上の威厳を示す僕。
しかし世の中そう甘くありません。特に僕に対しては常にハードモードです。
「タロくんの馬鹿〜っ!」
三本に枝分かれした斜光の刃が、主に僕を重点的に襲い掛かります。とある魔物さんを髣髴とさせる紅のツメです。
突然ですが、ここでモノローグ。
――タロくん、ここが魔術寮なのである。今日からここで暮らすのである。
――わかがしらは?
――その甘ったれた根性を叩き直すのである。人生、何事も経験なのである。
走馬灯を見ている場合ではありません。
即座に魔導書を解凍して、僕のマンドラゴラのステータスを上書きします。
「防いだ!? ならっ――」
唐突に新たなる力に目覚めた勇者さんは、的確に僕の心臓を狙って刺突を繰り出します。一途なところがあるのです。
と申しますか、身動きが取れません。何から何まで自業自得で申し訳ない。
――絶体絶命の危機! 果たして!? というあたりで、次回いよいよ交流祭の準備編です。
とりあえず、くまのぬいぐるみを置いておきます。お察しください。
第四十四話です。
“賢者の石”とは想像上の物質で、生産限定モデルの心臓と目されています。ゴーレムに搭載されている“輪廻炉”と同一の物質ではないかと噂されていますが、これに関してネル家は黙秘してます。