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友情の対価

「タロくんのアレは魔術なの?」


 唐突に尋ねられました。


 魔術に用いる薬草を求めて商店街を練り歩いていた僕は、珍しく買い物に同行してきた勇者さんを振り返ります。


 アレというのは、僕の後ろをのそのそと歩いているミミカ族の若きホープを指しているのでしょう。


 ねじれたツノ。もこもこの毛皮。ひょろりと伸びたしっぽの先は矢じりと似た形状をしています。


 “知恵ある羊”の異名を誇るミミカ族。古くからヴェルマー家と懇意にしてきた遊牧民の方々です。


 ヴェルマー家はミミカ族の自由を尊重し、領地を貸与する形で彼らの信頼と信用を勝ち取ってきました。


 僕の影に若頭が潜んでいるのは、そうした訳です。


 詳細は省きますが、人魚の末裔という胡散臭い設定の大地主さんのお宅訪問を敢行したところ、僕らを待ち受けていたのは、呪霊王さま(一応、王様なので)のリベンジマッチでした。


 百回中一回は死んでしまうという恐るべき大魔術の前に倒れる勇者さん。勇者さんの危機に、颯爽と僕はお昼寝中(ミミカ族は夜行性なのです)の若頭に縋ったのです。


 ゆさゆさと肩を揺すって助力を請うたところ、若頭は僕の手をうざったそうに跳ね除けました。


 ところで呪霊王さまは目的を果たしたらしく、満足そうにその場をあとにし……。


 ぽつんと残された僕は、目撃者がいないことを良いことに若頭が呪霊王さまを撃退したことにしたのです。


 大地主さんはお礼をしてくれるそうですし、当初の予定は狂いましたけど、僕らの先行きは明るそうです。


 さて。


「魔術ですか……」


 難しい質問です。しかし結論から言えばノーでしょう。その旨を伝えると、勇者さんは不思議そうに首を傾げました。


 そもそも魔術というのは、魔物さん達の正体を知る過程で生まれた技術なのです。そうした意味で、三大貴族の一角、ネル家のお家芸たる“反魂”は、ひとつの解答を示したと言えるでしょう。


 ミミカ族は魔物ではありません。これは医学的に証明された事実です。したがって、彼らを召喚するスキルは魔術たりえないのです。何か別のものです。


「ふうん」


 勇者さんは興味なさげです。初黒星を気にしたふうでもありません。 


「タロくん。我はお腹が空いたのである」


 若頭が唐突に空腹を訴えました。今回、何もしてくれなかったくせに、食欲だけは旺盛です。


 さっさと寝床に帰らなかったのは、そういう訳なんですね。まったく。仕方なく僕は、立ち止まって片手を差し出しました。


 若頭は、僕の腰を抱き寄せると、ローブの袖をまくって僕の手首を甘噛みします。何か大切なものが失われる感じがしましたけど、寝れば直るので問題ありません。


「『ベリアル。何をしている』」


 勇者さんが何か言いました。彼女の故郷の言語なのでしょうか?


「『対価は魂と決まっている。俺とヴェルマーの間で交わされた契約を、貴様にどうこう言われる筋合いはない』」


 ミミカ族は博識です。僕の手首から口を離した若頭が、勇者さんに何か言い返しました。


「『悪魔め。あたしがヴェルマーを乗っ取った暁には、お前ら根絶やしにしてやる』」


「『黙れ、メス犬。貴様の薄汚れた魂に興味などない。失せろ』」


 会話が弾んでいるようです。少女と羊さん。なんか微笑ましいですね。


「『今、この場で殺してやろうか』」


「『面白い。やってみろ。人間ごとき下等生物が』」


 若頭は僕の数少ない友達なのです。割と人見知りするようですが、勇者さんとのコミュニケーションが成立しているようで、僕はほっとしました。


 呪霊王さまの襲撃から明けて翌日、とある昼下がりの午後でした。

第四話です。

ヴェルマー家は一部で悪魔憑きの家柄として有名です。

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