星に願いを託して
交流祭とは何か。……深遠な問い掛けです。
――勇者さん。
星の数ほど人がいて、人と人との関わりが、やがてひとつの大きなうねりとなってですね……。
「分からないなら、分からないって言えばいいのに」
…………。
そんな筈はないじゃないですか。僕は魔術寮の一員なんですよ?
たしかに一年生のときは交流祭の存在自体を知らなかったですけど、それは過去の話です。
二年生のときは、まあ、級長さんを連れ戻しにネル家へ出向いてましたね。戦争は数なんだなと思い知らされました。
そして、三度目の夏。……あれ? おかしいな? 地面の下に埋もれた記憶しかないですね。
ああ、そうそう、士官学校の上級生二人と親睦を深めていました。今は二人とも騎士団でがんばってるみたいです。貴族と平民の友情を僕は応援してますよ。
あー……。
交流祭か……。きっと楽しいんでしょうね。
「…………」
…………。
という訳で、勇者さんの素朴な疑問を解消するために投書箱を設置したのが一週間前の出来事。
お題は“去年の交流祭で最も印象に残ったこと”です。べつに知らない訳じゃないですから、僕。ええ。
得体の知れないスジから情報を仕入れたマルコーさんの提供で魔術寮の全回線をジャックしてお送りします。
第一回、ヴェルマー放送局〜。ハイ、ワーグナさん、曲。
【魔術師達の魔力が低下しました】
【ダロは聞き流しました】
何も聞こえません。
それでは一通目のお便り。どれどれ……。よし、君に決めた。勇者さん、お願いします。
「高く付くわよ」
ギャランティの交渉を今この場でしちゃうんですか。
弱ったな……。あとでなんでもしてあげますから、とりあえず放送事故を未然に防ぐ努力をしましょう。ね。
「後悔しても知らないから」
不吉な言葉を残して、勇者さんはお便りを読み上げます。
「魔術寮お住まい、匿名希望のカルメル坊や」
勇者さん、匿名希望の方のお名前は言っちゃ駄目です。
「次からはそうするわ。んん……。
“人には言えない依頼を受けてくれるって本当? さっそくだけど、五年の子スペンサをなんとかしてくれ。貴族ってだけで、おれが何したよ? どう考えてもおれ無関係だし。無関係だよ。頼んだから。頼んだからな”
……下衆が。タロくんステッカーを一枚進呈」
いきなり勘違いさん来ちゃいましたね。ステッカーなんて用意してないですけど、おめでとうございます。
あ、ロアさん。ほどほどにしておいてくださいね。
血生臭いスタートを切ってしまいましたが、気を取り直して二通目に参りましょう。
「魔術寮お住まいのPNケニー。
“騎馬戦が印象に残りました。士官学校の人たちって筋肉バカだから嫌になります”
……普通ね。タロくんストラップを進呈」
……騎馬? ゴーレムが出るんですか? これはカルメルくんに要相談ですね。手遅れにならないといいのですが……。
どうでもいいですけど、ストラップってなんです? ひょっとして僕の自費ですか?
サクサクと三枚目。
「同上、アリス=ローウェル」
どきり。
「“実は、諸事情で夏の部は参加できなかったんだ。あとで教えてくれると嬉しいな”
……ちっ。月のない夜は出歩かないことね」
舌打ちは禁止です。あと何かあげましょうよ。く、クッキーとか好きですかね?
「次」
アップルパイとか……。
「タロくん、あんまりあたしを怒らせないで」
……ハイ。
「曲入れて。CM入りまーす」
しーえむってなんですか……?
【ダロの気力が低下しました】
【勇者の気力が上昇しました】
世界の声とは裏腹に表情がフラットなままの勇者さんは、僕をじっと見詰めて、
「タロくん、バケツ持って立ってなさい」
逆らえる訳もなく、バケツを持ったまま放送を再開します。
「CMあけまーす。サン、ニイ、イチ、きゅー」
いえ、回線は常にオープン状態です。
「…………」
ごめんなさい。
「そうやってすぐ謝る」
……最近の勇者さんは冷たいです。
「なんのこと?」
どうして、どうしてローウェルくんにツラく当たるんです?
「…………それは」
目を逸らさないでください。どうしてなんです?
問い詰めると勇者さんは、かーっと頬を赤くして、すわ、目にも止まらぬ早業で星の剣を抜刀、光の剣尖を僕の喉元にぴたりと添えました。
「タロくんのバカ! 甲斐性なし! 金髪フェチ!」
僕が馬鹿でした。五枚目をどうぞ。
「ん。……本人の名誉のため、あえて名前は伏せるけど。
“裏庭にて待つ”
……以上よ」
…………。
混ざってましたか。もうそんな季節なんですね。
みなさん、どうやら第一回目の放送はこれまでのようです。おそらく次はないでしょう。
さよなら、さよなら……。
第三十三話です。
“拍子”や“音叉”など即効性のある魔術は、魔物に対して有効とは言えませんが、人間に対しては十分な効果を望めます。