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未来に手を差し伸べて

 珍しく平和な午後です。


 窓際の席と言えば聞こえは良いですが、実質これはイジメなのではないかと勇者さんに指摘されて芽生えた疑念を振り払う、ささやかな領地でぼんやりと正座しています。


 住めば都と申しますか、真後ろにロッカーがあるので内職に事欠きませんし、急な補習が入ったときの早退もスムーズです。


 デメリットを挙げるとすれば、まず普通に黒板が見えないことと、ときどき世界に一人きりで取り残されたような絶望的な孤独感に(さいな)まれること、そして何より、


「またアタシのおしり見てたでしょ。ったく、これだから貴族は油断ならないのよ。基本的に根暗だし、人畜無害な顔して腹の底では何を考えてんだか……あ、こら、見んな!」


 見上げればそこに僕の天敵が座っていることでしょう。


 対外的には最後尾とされる席で、さっと頬を赤く染めたロアさんがもじもじと身をよじって僕を見下ろしています。


 顔を上げることさえ禁じられてしまった僕は、目線を落とし、僕のひざまくらでお昼寝中の勇者さんのあどけない寝顔を見詰めます。


 癒されます。


「むかっ……あんたね……人と話してるときは目を見て話しなさいって習わなかったの?」


 ロアさんの言うことは矛盾に満ちていて、いっそ清々しいほど理不尽です。


 さて。


 娘さんの(しつけ)に関して二、三言いたいことがあるのですが……親御さんは市街戦に移行したようで、仕事も家庭も顧みている余裕はなさそうです。


 獲物をいたぶっているときの若頭は、普段の怠けぶりが嘘のように生き生きとしているので、中断させるのも忍びないですし……。


「なんで無視すんの……」


 少し目を離した隙に涙目になっているロアさんが、僕のローブに付いているフードを上げ下げします。


 自己顕示欲の強いところは相変わらずです。へたに誤魔化そうとすると、おしおきポイントが累積してしまうので、とりあえず頭を撫でて沈静化を図ります。


「撫でんな!」


 一喝されたので、ひとまず安心です。


 つ、と目線を上げて、ロアさんの席の周りで集まってひそひそと密談している女子生徒の皆さんを一瞥します。


「あれ、何やってるんだろ」


 クラスの流行を定期的にリサーチしている僕は、知らない振りをしてロアさんの優位を確保しました。


「知らないの? 遅れてるわね、あんた。そんなんじゃ社会に通用しないわよ」


 …………いえ、どちらかと言うと、僕は貴女の将来が心配です。飴玉、いります?


「いらない。……あんたさ、アタシのこと愛に飢えた子だと思ってない? なんかドナと同列に扱われてる気がするんだけど……」


 気の所為です。


「……そう? ならいいけどさ」


 愛に飢えているロアさんは、僕を小馬鹿にするような目で見て、


「本当に知らないの? 今ね、アタシ達の間じゃ占いが流行ってんのよ。馬鹿らしいとは思うけど、まあ暇潰しね」


 ふと哀れみの色が瞳を過ぎります。


「あんたも混ざる?」


 もちろん僕は占いなんて信じていません。ついでに言うと、同情なんてまっぴらです。


 睡魔に屈してなるものかと睡眠学習に勤しんでいる級長さんを一瞥し、


「是非もない」


 勇者さんを抱き寄せて、前々から虎視眈々と狙っていたロアさんの座席に腰掛けます。ようやくクラスの一員になれたような気がします……。


「あ、ヴェルマーくん」


「いよいよ真打の登場ね」


「ていうか班長、照れすぎ。座っただけじゃん」


 思いのほか好感触です。きっと勇者さんの癒し効果の成せる(わざ)でしょう。


「じゃあ、行っくよ〜」


 占い師に扮した同級生が水晶玉を掲げます。


 僕の未来なんて見ても面白くも何ともないでしょうけど、こういう積み重ねが大切だと思うんです。


「え、なんか黒く濁って……」


「あ」


「砕け散っ、」


 …………。


「…………」


 かくして、スペンサ班の密かなブームは去ったのです。

第二十五話です。

占いと言えば占星術が一般的ですが、観測することで未来が確定してしまうという思想が蔓延しているため、王国では禁止されています。

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