打ち寄せる波
突然ですが、潮干狩りです。
昨日、魔の森の中でくまさんと出会っ、じゃなくて、呪霊王とかいう魔物さんと熱いバトルを繰り広げた訳ですが、そんなことはどうでもいいです。
勇者さんが人外の力を発揮して、僕はそれをぼんやりと見ていたっていう、いつも通りの展開でした。森を覆っていた呪いがなくなって世界樹が解放されましたけど、僕が勇者さんから解放される日は遠いな、って思ったくらいです。
あと何故か僕の杖が新調されました。なんか怨嗟がこびり付いてる感じがして、果てしなく鬱です。ていうか、これ枝ですよね。
……あれですか。遠回しに僕の存在を否定してるんですか、どうなんです、勇者さん。
そんな訳で、勇者さんのご機嫌取りを兼ねて、海に繰り出した次第です。
青い空。白い雲。眩い太陽。輝く白浜。シーフード。大自然って素晴らしいですね。世の中、お金が全てじゃないってことを勇者さんに知ってもらうという僕の目論みは大成功の予感です。
「…………」
うん、勇者さんはキレかかってますね。黙々と砂を掘り返してるんですが、さっきからひとつもヒットしてませんから、その所為でしょう。自然物との相性の悪さは相変わらずです。きっと呪われてますね、あの人。これは盲点でした。
? なんで僕を見るんです? 言っておきますけど、この貝さん達は譲りませんよ? これは僕のです。売ってお金にするんです。先立つものは必要ですし。
「……生贄が必要ね」
僕は魔術の行使を決意しました。旅立つ前は唯一と言っていい僕の取り得でしたが、ごく最近になって、なくても別に困らないことに気が付きました。
「――……」
魔術と言っても手から炎を出したりする訳じゃありません。勇者さんは「夢が壊れた」とか言って地味に批判しますけど、そういうのが見たいのなら他を当たってください。
手持ちの枝を媒体にするのはひどく抵抗があるので、ここは一番ポピュラーな“呪言”を唱えるとしましょう。
僕の詠唱は、見た目チョロイけど声だけなら悪の魔術師っぽいと、なかなか好評です。
「……くっ」
無念です。貝さんとのコンタクトに失敗してしまいました。ようは不発です。
「タロくん、おいで」
魔力を使い果たしてしまった僕を、勇者さんが手招きしました。
言い忘れていましたが、彼女は御歳十二歳の立派なレディです。目上の人間を供物に捧げたりしない分別ある年頃だと僕は信じています。
「いいから。ね?」
信じています。
第二話です。
魔術はほぼ万能の技術ですが、資質によるところが大きく、また個人でできることは限られるという設定です。