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自由の明日へ

 教室に居場所がありません。


 こんにちは、ダロ=ヴェルマーです。


 教室の片隅に置かれたみかん箱の前に正座して、課題に取り組みます。馴染みの八百屋さんから貰った愛用の机です。大切に大切に使って三年目、そろそろお替えどきでしょうか……。


「今日はどこにも行かないの?」


 ロッカーにちょこんと腰掛けて足をぶらぶらさせていた勇者さんが、退屈そうに言いました。


「宿直室の明かりが点いたままでしたからね……」


「?」


「世の中には知らない方がいいこともあるんです」


 ご存知、給料泥棒のスペンサ教授ですが、たまに思い出したように教職者としての顔を見せます。


 そういうとき、決まってスペンサさん()が大変なことになっているのは周知の事実です。


「仕事に逃げてるのね」


 そっとしておいてあげましょうね。


「ロアたん、何か分からないことはないかなー?」


「…………」


「……スペンサさん?」


「スペンサ教授、大丈夫ですから。どこか遠くへ行っててください」


 ……そっとしておいてあげましょうね。


「ふうん」


 勇者さんは、高みからクラスメイト達を見下します。


「なんか学校みたい」


 学校なんです。


 魔術の資質は人それぞれです。級長さんは極端な例として、ローウェルくんは環境操作、ロアさんは自分の殻に閉じこもるのが大得意です。自分のスタイルを確立すること……それが魔術師として大成する秘訣なのでしょう。


 けれど知識は別です。


 魔術寮は対魔術師戦のエキスパートを養成する機関なので、あらゆる魔術への対処法を叩き込まれます。課題と称して戦争に駆り出される日もそう遠くないでしょう。この国は病んでます。


 不透明な未来に思いを馳せていると、クラスメイト達の無邪気な笑顔がますます遠ざかっていくように感じられます。


 僕の机と椅子は、いつになったら届くんでしょうか……。


 窓際の席で男子生徒達と固まって談笑しているローウェルくんの笑顔が眩しいです。


「いいなあ、いいなあ……」


 あの輪に混ざれたらどんなに楽しいことでしょう。


 あ、目が合いました。勇気を振り絞って手を振ってみます。


 すると、ローウェルくんは爽やかに笑って手を振り返してくれました。彼は素晴らしい人です。


「……前々から思ってたんだけど」


 なんです? 勇者さん?


「タロくん、友達いないの?」


 失礼な。いますよ。溢れ返るほどいます。昼夜の垣根を越えた友情ですよ。悲劇的ですらあります。


「言っとくけどアレ、端末よ。根っこで繋がってるから、全体で一匹なの」


 衝撃的な事実です。数少ない僕の友達が、たった一人の友達になってしまいました。


 ……いえ、そんなことはありません。僕は思い直しました。


 みかん箱の上に散乱している課題を掻き集めて、いそいそと廊下側の席へと向かいます。


「級長さん、級長さん」


 幾多の苦難を共にしてきた戦友です。


「ここの問題なんですけど……」


「寄るな」


 勘違いでした。


「普段のお前は、変なコトを考えてるから駄目だ」


「タロくん……?」


 誤解です。誤解なんです。


 冷たい眼差しで僕を睨む勇者さんを、級長さんは手招きして呼び寄せます。


「ドナ、騙されてはいかんぞ。奴は常識人ぶっているが、心の奥底ではミミカ族が別荘を建てて住んでいる。あれは笑える」


 笑えません。本人に無断で何をこさえているんですか、若頭。


 あと級長さん、人の大事なところに土足で踏み込むのはやめてください。そんなんだから貴女は友達がいないんですよ。


「ヴェルマー、いい加減に目を覚ませ。私達は貴族だ。貴族には貴族の生き方がある。お前は私の家で私の為に食後のデザートを作っていればそれでいい」


 それは貴族の生き方じゃありません。たんなる職業選択の自由です。


「あたしも一緒についてっていい?」


「歓迎するぞ」


 何を意気投合してるんですか。僕は実家に戻って家を継ぐんです。ミミカ族の方々の生活を支える義務が僕にはあるんです。


「タロくんのぶんまで、あたしがんばる」


 ――そう、大切なのはどう生きるかです。

第十八話。一応、第三章の幕開けです。

王国では、十歳になるまで魔術の習得を法律で禁止しています。

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