第一話-出会い-
『桜が舞う季節、俺は君と出会いました。』
俺は何もすることが無く、無職になったあの頃以来、ずっとこの道をひたすら歩き続けていた。桜が色鮮やかに咲き乱れているのには、興味もないし、花も嫌いだ。
「何でお前なんかがここにいるんだ!早く出て行っちまえばいいのに!」
勝手口から投げ出された鞄を追いかけるようにして、細身のセーラー服を着た女の子が俺の前でうずくまっていた。
「大丈夫かい?」
目の前の痣だらけの桜に聞く、桜は赤くはれた目をこすって、きょとんと俺を見上げた。勝手口はバタンと閉じられ、春の朝の静けさだけが漂っていた。
俺はできるだけ、笑顔を桜に見せた。笑顔は慣れなかったが少しでも嫌われたくなかった。しかし桜は笑わなかった。ただ頭を少し下げて、学校への道を歩いて行った。桜の母親。夕子が気に食わない顔で窓の向こうから俺を見ていた。振り返るとただ桜の花びらが舞っていた、そういえばあの頃も舞っていたな。俺は今来た道を帰っていった。
窓の外に居た海の姿が見えなくなり、私はやっと腰を下ろした。『何であの子がここにいるの?あれ以来姿を見せないから、てっきりどこか他の町へ行ってしまったと思ったのに。電話には出ないし本当に居なくなってしまったと思ったのに。桜は桜で気に食わないけど、海は海で気に食わない。』私は、部屋に散らかった書類を束ねながら、いらいらした。もうあの子なんていらない。もともと、夫であるあいつが死んだのがいけないんだ。何で私がわざわざ桜の面倒を見ないといけないのよ・・・。さよなら・・・桜。私は部屋を出た。
「桜おはよー」いつもと変わらない友達。手足にできた痣は少し長めのスカートと春先の長袖で隠れてくれた。「おはよう明ー」作り笑顔はいつの間にか上手くなった。だけど今日は笑えなかった。ただ毎日を送る日々、だけど少しずつ変化する今、私はその中を漂っている。今朝会ったあの男の人は誰だったんだろう。何で私に笑顔で接してくれたんだろう・・・?同情?私は授業を聞きながらふと思った。あの人は誰?
『桜が散る季節、私は貴方に会いました。』
お読みいただいた方感謝です。
第一話始まりましたが、まだまだ続きます。
良かったら続きもお読みください。