試し行動の罪
似た様な話を書いてたりするのですが、急に書きたくなりまして。
愛は免罪符じゃないし、愛は信頼をずっと細々と積み上げて行かないと、ちょっとのことでもすり減るものだと思います。
お久しぶりでございます、殿下。
えぇ、此度はこの場をお借りして私からお話がございますので、来てくださりありがとう存じます。
まずは、お聞きになりましたでしょうか。
何を…ですか。
そこからなのですね。
此度は私と殿下の婚約が白紙撤回となりました。
この5年間婚約者としてお支え致しましたが至らず申し訳ございません。
何故?ですか。
今回のことは大枠は殿下が原因です。
どう言うことか?ですか。
婚約して5年ですが、3年ほど前から殿下が私に与えられた、“婚約者としての試練”という名の“試し行動”が繰り返されてきたことが問題でした。
周りに話したのか?ですか。
そんなことせずとも我々の行動は陛下以下主要な方々に報告されておりますから、私が積極的に周りに言わずとも筒抜けですので、その質問は無意味かと。
あら、お忘れでしたか。
まぁ殿下の場合は日々誰かに見られているのが当然でしょうから、気にも留めてなかったのでしょう。
私と殿下の婚約は王命でもあったのです。
ただの個人の感情論など意味がないのです。
殿下は私と2人のやり取りだけだと思われていましたが、周りに侍女や侍従、使用人や護衛も存在致します。
それに殿下の試し行動は私だけでどうにかなることもあれば、そうでないことも多々ありました。
ですので、色んなところから上に報告がいっているのです。
もちろん私の家族にも殿下のご家族にも。
ようやくご理解頂けましたか?
まぁ先程も申しました通り、普段から人が周りにいることに慣れきっているとそう言う勘違いもございましょう。
話を戻しますが、この度重なる試練もとい試し行動が私の精神や親愛の情をすり減らし、周りの大人の悪感情を集め、殿下への評価が急降下した結果、婚約を継続するに値しないという判断が下りました。
この試し行動が思春期の揺らぎからくる一時的ものでしたらそこまで問題になりませんでした。
が、殿下の場合は自分が満たされるために少しずつ助長されていきましたので、このまま成長したとしても歯止めがかかることがないと思われてしまいました。
このまま婚約を継続したとて、2人の関係性が良くなると思えない、婚姻しても同じことが繰り返されないとも限らない、今は私だけでとどまっていても、更に周りにも同じ様な行動を起こす可能性も非常に高いとの評価が下りました。
そうなれば国が揺らぐことにもなりかねない、それならば白紙撤回して綺麗にした方がいいとのご判断です。陛下方の。
いくら殿下が王太子ではなくスペアの第二王子で次期王弟とした立場とはいえ、高位の立場の人間が簡単にやってはいけないことを常日頃からしてしまっていたのです。
そしてその身分に胡座をかいた傲慢さに陛下も王妃殿下も処置なしと判断された結果です。
そうです、陛下方からも見放されたのです。
ようやくご自分のお立場についてご理解頂けた様でようございました。
あら?今度は私の今後ですか?
ご安心ください。
殿下が思い煩うことは何一つございません。
王命での婚約を王命で白紙撤回されましたので、もちろん今後の保証が王家からされております。
私の立場は変わらず、王太子殿下・王太子妃殿下ご夫妻を支えるための王子妃となることに変わりございません。
えぇ、そうです。今の王家には王太子殿下と第二王子である貴方様以外に王子殿下はいらっしゃいませんから、殿下の代わりの方が王家に養子に入り私と婚約致しました。
そうです、既に婚約しております。
今はそのお披露目のために準備していますので、先程も申し上げた通り殿下が思い煩うことは何もないのです。
もちろん今後、ご自身の安寧のための試し行動をこれ以上取る必要性もありません。
既にその安寧は崩れ去っておりますので。
それでいいのか?ですか。
えぇ、全くもって問題ございません。
殿下の一方的な愛情の搾取に疲弊しておりましたので。
私自身、かなり前から殿下に今後寄り添うのが苦痛になっておりましたの渡りに船でした。
私の家族も殿下のやりようにずっと怒りを溜めておりましたから、全くもって反対意見など出ず、大喜びしておりました。
えぇ、私と私の家族以下の後ろ盾を殿下は自ら放り投げて捨てていたのです。
私の両親は再三王家に抗議しておりましたが、殿下のご両親が何とか押し留めていたのです。
ですがこの様に長期間にわたる殿下の幼稚な態度に庇っておられた陛下方の心にも折れるものがあり、殿下の周りの方々の忠誠心処か、陛下方の忠誠心にも揺らぎが生じて参りましたので、致し方ないかと。
そうです、今まで諌めつつも殿下の行動を許しておられた陛下方の求心力が著しく低下するところまでいってしまっていたのです。
此度のことで陛下方の退位が早まることにもなるでしょう。
退位が早まっても、殿下を始め陛下方にも強く諌めておられた王太子殿下と妃殿下がおられます。
お二方の言動や立ち回りによって求心力が高まっております上に、既にお子様もお生まれになっておりますから尚更でしょうね。
本当に喜ばしい事です。
殿下の敗因はご自分の立場が盤石だと思い込んでおられたことでしょう。
そして私に対する行動が私との個人間のやり取りだけだと思い込んでいたことでしょう。
私が多少抗議したとて変わらないと傲慢にも思っておられたでしょうが、殿下は良くも悪くも周りに影響を与える立場なのです。
そうなればちょっとした出来心からの行動でも大きな余波を生むのです。
そしてそれによって盤石だと思っていたものが全くそうではなかったと言う事実が、明るみになっただけなのです。
ふふふ、ようやく本当の意味で大半のことがご理解頂けた様で。
あらあら?この期に及んでようやく謝罪ですか。
その上でやり直したいと。
それはできません。
先程も申し上げた通り此度の一連の事は王命なのです。そしてそれは既に行使され撤回できません。
それに私は殿下と添い遂げたいと思えない、むしろ謝罪されたところで嫌悪感しか残っていないのです。
これ以上殿下にかける時間など無意味なものでしかないのです。
お分かり頂けましたか?
殿下の様な方が、ご自分の隣に忠誠心も親愛も何もかもがすり減った私を置いても上手くいくことはないと言うことに。
そのまま置けば私と私の家族の中の憎悪が増すことでしょう。
私もそんな状態で殿下と婚姻更に身体を合わせるなど、とてもとても。
無理矢理推し進めても殿下への拒否感から自傷、もしくは殿下を物理的に排除する方向に振り切ってしまう恐れがあると判断されたのです。
えぇ、私は今のところ精神を保っておりますし、殿下との白紙撤回によって気持ちが上向きに安定しておりますからそれを今更壊す必要などありませんから、このままで全くもって問題ございません。
そうそう、敢えてなのかわかりませんが、殿下がご自分の今後について聞かれなかったので、後回しにしておりましたそれも併せてお伝え致しますね。
何かあれば伝えていいと言われておりますので、ちょうどよろしいかと。
殿下は今後二つ隣の女王陛下が統治されている国の後宮に入られることになります。
えぇ、私の立場が基本的には変わらないのですから、当然ながら殿下のお立場が変わるのです。
女王陛下は殿下よりも15歳程上で、既に王配も王配との御子もいらっしゃいますから、次期王の実父になることはございません。
むしろ多情ではない女王陛下が古くからの慣習でもっているだけの後宮に入るので、今後は殿下の御子は生まれません。
えぇ、断種された状態での後宮入りです。
そんな風に私に激昂されたとて変わりません。
と言うより既に断種されたとお聞きしております。
えぇ、謹慎をされていた間に既に処置済みと。そうです、無駄を省くために。
それほどの事をされて来たのです。
これでも比較的穏便に進められているそうですから、感謝された方がよろしいかと。
表向き同盟強化の為の礎となられるのですから、ご自分の栄誉が守られたとして理解された方がよろしいでしょうね。
もちろん、一国の王子として迎え入れられるので、それなりの待遇は保証されます。
ただ政には携わるのは難しいでしょう。
ただ女王の寵愛をめぐっての争いもほぼなく均等に扱われるでしょうから、特に揺らぐこともなく試し行動もせずとも心穏やかに過ごせる事でしょうね。多分ですが。
その代わりご自分の存在意義も薄れるでしょうが。
まぁ致し方ございませんね。
あぁ、そうでした。
殿下は王子として出荷されますので、王子としての立場は保持されます。
ですが、権限は全て剥奪され、これより誰も殿下の命令にも、お願いにも、懇願にも、聞き入れられる事はございません。
えぇ、私に対して既成事実などを作ろうとしても…そう、この様に這いつくばる様に伏せられますし、場合によったら手足のどれか一本程度は犠牲にされるやもしれません。
ふふふ、絶望が身に染みてこられて来ましたか。
そう、その顔が見たかったのです。
私が今回この様に殿下にお話しているのは、私から殿下に最後通牒を与えて絶望するご様子を見るためでございました。
それと最後に言いたい事を言える範囲で言うことで、私の中の澱んだ感情を全て出し、今後の憂を取り除くためでもありました。
大人の方々のそのご判断は正解でしたね。
婚約していた若い時代の5年間と言う貴重な時間は戻って来ませんが、今後の何十年と言う長い時間を有意義に過ごすために必要な事でした。
殿下は、私が殿下との婚約をなくなればと行き場がなくなるので、そう簡単に変化が起きないと思い上がっていたのでしょう?
ですが、そんな事はなかったのです。
残念でしたね。
そうそう。
一応王太子殿下の側妃になる案もございましたのよ。
えぇ、貴方様が何一つ勝てない王太子殿下の。
ですが、妃殿下と私の年齢に開きがあまりないので、その案は流れました。
お二人の婚姻後3年間は側妃の輿入れの期間を空けると言う国の法律によって、私が適齢期の段階で立場が宙に浮くのを周りが良しとしませんでしたので。
私は王太子殿下、妃殿下との相性が悪くなく、元々“お二人の補佐のために国に嫁ぐ”予定でしたから、私の年齢があと3つ以上下であればそうなった可能性が高いでしょうね。
それも貴方様をそれは見越しておられたのでしょうね。
だからご自分と私の婚約は多少のことでは継続されると踏んでいた。
周りもその傲慢さに辟易しておりましたから、殿下の思い通りにならない様に心血を注ぎましたのよ?
試し行動をするばかりに敵ばかり作ってしまった殿下の落ち度ですわ。
本当に本当に残念でしたね。
殿下は私はもちろんのこと、それ以上に周りの方々の信頼と信用をすり減らしておりましたから、次期王弟としての評価が著しく低下していたのです。
そんなこともわからなくなっていた、だから他国に出荷されるのです。
貴方様にはその程度しかもう価値がなくなってしまったのです。
しかもご自分で価値を下げ続けたので、誰のせいでもございません。
誰かを逆恨みする謂れはないのです。
強いて言えば陛下と王妃殿下の甘やかしと静観でしょうか。
なのでご自分とご自分の製造元に問い合わせをお願い致しますわ。苦情もまた。
私も始めは些細なことでしたから気にしておりませんでしたが、それが積もり積もった上に要求が助長していくのは、殿下のこと以外でも忙しくしていた身の上では、本当に辛うございました。
しかも私からは同じ様なことを返すのは身分上難しく、ただただ悪感情が積もって参りました。
殿下と、それを静観されていた大人の方々への。
いくら資質を見るためとはいえ、助長する様に持っていくのは些かどうかと思いましたわ。
初めの方できっちりと殿下に灸を据えていればこんなことになりませんでしたでしょうに。
ずっと心は荒んでおりましたのよ、殿下以上に。
それと殿下はご自分の味方をどんどん敵にしていったので、そう言った工作がお得意なのだなと思いましたわ。
そして王子と言う身の上では問題ある能力の持ち主だとも。
婚約の白紙が決まってからしみじみと殿下と離れられる喜びを噛み締めている日々です。
殿下は今まで表立ってこんな風な悪感情を直接ぶつけられた事ございませんでしょう?
良かったですね、貴重な体験がお出来になられて。
私としてももう得られない千載一遇の機会ですからしっかり堪能致しました。
ふふふ、敵の心が折れる瞬間とはこんなに清々しいものなのですね。
あぁ、このお役目を受けて良かった。
えぇ、そうです。
今回のことは私の澱んだ心の修復と殿下の精神を折ることが目的でございました。
私の安寧は先程述べた理由にございます。
殿下に関しては希望や野望を持たせたままですと、出荷先にご迷惑をお掛けしますから。
これで何の憂いもなく日々を過ごせることになるでしょう。
もちろん、王子妃としてこれから役目を果たして参りますので平坦な道ではござませんが、それでも殿下と離れられるだけで本当に喜ばしいことです。
支え合っていく相手からの過剰で一方的な要求が続くことは絶望が長く、心の安寧がなければ冷静に秩序を守るのも難しいですから。
殿下の欲求がどこまで続くのかわかりませんでしたが、多分満たされないまま周りに悪感情をばら撒き続け、場合によっては始末されることもあったでしょうね。
あら?そんなに急に笑いになられてどうかされまして?
まぁまぁ、今回の一連のことは殿下を試す試し行動だと?
そんなことせずともご自分は私を愛しているからやめろ…ですか。
いいえ、いいえ。
私と殿下の婚約白紙も殿下が後宮に入られるのも事実です。
試すといえば、確かにどの様な絶望したお顔を見せて頂けるかと言った意味では、言葉を選んで試しておりましたが。
ですが、決定されたことは覆りませんし、殿下の資質を試すための時間はもう過ぎ去りました。
えぇ、東方の言葉に目には目をと言う罰則を与えるための言葉がありますが、試し行動には試し行動と言ったものではありませんわ。
殿下が私を愛していようがいまいが、私と殿下の道はもう交わりません。
大いに憎んで下さって結構です。
私は今後、新しい方と殿下の二の舞にならぬ様に努力するだけです。
殿下のことは“過去として”、“教訓として”頭の片隅に置く程度になる予定ですから、幾らでも憎んで下さっても問題ありませんわ。
それも年月と共に私は忘れていくでしょう。
貴方様はもう既に必要とされない存在なのですから。
試し行動ってやっぱり相手を傷つけるだけだなと思い、勢いで書きました。
やる方はいいけど、やられた方はずっと恨みに思うこともあるよねって言う。




