幸せの味
「さ、どうぞ! たんと食べてね!」
少女はサヨと名乗った。
街で茶屋を営んでるそうで、腹を空かせた人は見過ごせないらしい。
ヒイナは地獄に仏をみたような、きわめてありがたい気持ちになった。
「わ、すんごくおいしそう☆」
ヒイナの前に差し出されたのは紫色の肉塊や、真っ赤なスープ。ドギツい蛍光ピンクのサラダなどだ。
サヨ専用のメイドを自称するミオは、ヒイナが料理を前に目を輝かせるのを三度見した。正気かお前という顔をして、実際に正気ですかと口にした。
料理が完成するまではどこか申し訳なさそうな表情をしていたのだが……。
ヒイナは、もちろん、めちゃくちゃ正気ですよ☆ と快活に返した。
「おおっ☆ これ、めちゃくちゃおいしいですね☆ ほっぺ落ちちゃいそう☆」
ソレは名状しがたいような、かなり刺激的な味だった。
けれどもヒイナは本心から美味しいと感じ、厚かましいかな、と不安になりつつもおかわりまでさせていただいた。
ミオは理解不能の生命体を見るような目をヒイナへ向けた。
「これは夢かの……? まさかサヨちゃんのゲロマズ料理をおいしく食べる人間がいようとは……」
常連の一言である。
サヨの店は繁盛している。
けれど、誰も食事を頼まない。何故なら、常軌を逸してマズいからだ。
サヨ自身も料理上手になろうと努力しているが、どうも根本的にセンスがないらしく上達していない。ただ、彼女のお人好しな人柄が街の人に愛されるため、店は繁盛している。
「んーっ☆ このお肉……ん、噛み切れた。お肉って初めて食べたけど、こんな味なんですね☆ おいしい☆」
「あの……ヒイナさん。それくらいにしておいた方が。おなか壊しますよ、そんなマズいの食べたら」
「おいしいですもん☆ 問題なしですよ、ミオさん☆」
「えぇ……」
ヒイナは今、人生の幸せを謳歌していた。
こんなにおいしいもの、スイやセイラにも食べさせてあげられたらなと思って少しだけ落ち込んだが、それはそれとして料理がおいしかったので幸せだった。
──
「ごちそうさまでした☆ 物凄く美味しかったです☆ サヨさんって料理上手なんですね☆彡」
「アハハ。そんなこと初めて言われたかも。ありがとね」
ヒイナが本心から褒めると、サヨは照れ笑いを浮かべた。
「それで……ヒイナちゃんはこれからどうするの? ご飯に困ってたくらいだもん、行く当てないんでしょ」
「それは……はい。面目ない」
「働いてもらうことになるけど、家に住む? ミオもいるし、もう一人くらい増えたって平気だよ」
サヨの申し出はとてもありがたかった。
涙が出るほど嬉しかった。ヒイナの胸を温かいものが満たした。けれど、頷くわけにはいかなかった。
流石にそれは厚かましすぎる。
「いいえ、そこまで迷惑になるわけには──」
「はい決まり! よろしくね、ヒイナちゃん!」
サヨは強引だった。
戸惑うヒイナに、ミオがそっと耳打ちしてきた。
「どうか付き合ってあげてください。お嬢様は人助けが趣味の、変な人なのです」
「人助け……」
なんていい人達なのだろう。
ヒイナは涙腺が緩むのを感じた。
「ちょっとーっ! ナイショ話しないでよ〜っ!」
「拗ねない拗ねない。ヒイナさんにメイドの心得を教授してたのですよ」
──何だか後ろめたいけれど、お言葉に甘えよう。そして、精いっぱい、できる限りの恩返しをしよう。ヒイナは決意した。




