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彼女達が見た星

 出会ったばかりの頃、スイはヒイナの事が嫌いだった。




  スイ視点



 反吐が出そうだ。

 なんだこの女は。なまっちょろいことばかり言って、理想論ばかりの甘ったれめ。

 そして、こんな女に感情を乱されてる私自身にも反吐が出る。


 ことの経緯はこうだ。


 クソったれな世の中だもの。ありがちな話だけど、勘違いしたチンピラが、煌子適合者の私達にゆすりをかけてきたって話。

 身ぐるみ置いてけってさ。バカじゃない?

 相手なんかする必要ない。軽くひねって、身の程を教えてやるのが親切ってもの。


 だってのに、この女ときたら…


「ぇえー。しょうがないなぁ。それじゃあヒイナちゃんのお小遣い分けてあげるね☆ やったー! よかったね☆ いえーいラッキー☆彡」


 頭おかしいの?


「足りねぇよこんなんじゃ!」

「えぇ…。でももう、ヒイナちゃんお金ないし…」

「そこまでですよぉ。まさか本気で私達を相手に勝てるって、思ってるわけじゃありませんよねぇ?」

「あ?」


 生物としての格が違うんだぞ、私達とお前達とは。カツアゲなんか上手くいきっこない。

 ちょっと凄めば消えるだろう、そう思ってたけど、逆効果だったみたい。


「舐めた口を利くな!」

「生意気なガキは分からせてやらないとなぁ」

「へへへ…」


 あろうことか、武器を抜いて凄んできた。そんなチャチなオモチャ振り回したところで、いったい何ができるっての?


 愚かすぎでしょ。

 はぁ、仕方ない。わからせてやるか。


「まぁ待って。お金ないけど、ヒイナちゃんの大事なやつあげるね☆ ほらこれ、星の石☆ きれいでしょっ」

「いい加減にしろっ!」


 男が振り払った手が、星の石とやらを砕いた。

 瞬間、あの女の目つきが険を帯びる。


「──先に謝るよ。ごめんね。

 今からあなた達のこと、ぶっ飛ばすよ」

「へ?」


 言うやいなや、男たちは宙を舞っていた。

 何この女、感情のブレーキ破壊されてるの?

 ……いや、そんなことはどうだっていいか。


「はぁ。お金、さっさと取り返して帰りましょうねぇ」

「だめだよ。あげたお小遣いは取り返さない。この子たち…悪い子だったけれど、アタシぶっ飛ばしちゃったもん。迷惑料だよ」

「お人好し」





 シュリ視点



 ヒイナさんはいなくなってしまった。

 ソレも、私を庇って。


 ヒイナさんがいた場所には、大事に磨かれた星形の石ころだけが落ちていた。聞いたことがあった。これは願いを叶えてくれるとかっていう、昔のお土産品だ。



 天秤の結晶人がいなくなったあと、私達は北東に進み、今はシェルター都市に来ていた。驚くべきことに、ここはまだ結晶人に見つかっていないようで、無事だった。


 移動する時はかなり大変だった。

 地面にへたり込んだスイさんは、うわ言みたいにヒイナさんの名前を呼んで、まったく動こうとしなかったから。光のない瞳は、ヒイナさんがいた場所を一心不乱に見つめてた。

 モミジさんが気を失ったままのセイラさんと一緒になんとか担ぎ上げて、ここまで運んでくれた。ちなみに、ここに来るよう提案してくれたのは、復帰したセイラさんだ。


「モミジさん、大丈夫ですか…?」

「……っ。おお! ワタシは今日も元気だぞ! シュリは元気か?」


 明らかに空元気だった。

 そして、元気かという問いに、私は答えられそうになかった。

 ヒイナさんとはそれほど親しくはなかったけど、でもいい人だなって思ってた。

 空回りしがちだけど明るくて、優しくて、空気が読めないイタい子。でも、明るさよりも優しさよりも、その空気の読めないイタさが、何よりも私には救いに見えていた。こんな世界でも、ああやって理想を語る人がいてもいいんだって。


 ヒイナさんはいない。


 スイさんはいつも通りに振る舞ってるけど、どこかうわの空で、遠い目をする。

 セイラさんは目に見えて失敗が多くなった。簡単な計算間違いや、何でもない道で転びそうになってるのを見かけた。



 ヒイナさんがいない。

 ──ヒイナさんは、私のせいでいなくなった。


 親しくはなかった。

 けれど、知らない仲じゃ決してなかった。

 ヒイナさんが語る痛々しい理想も、何を守ろうとしてたのかも、全部知っていた。


 苦しい。胸が痛い。

 全部全部、私のせいなのだ。私がいたから、ヒイナさんは居なくなった。


 


 ──だから、継がなきゃ。

 私なんか、ヒイナさんにはなれっこないけれど。ヒイナさんが守ろうとしたもの。希望や誰かの笑顔、全部守れるように、強くならなきゃ。どんなに怖くても。


 それが、それだけが私にできる贖罪。

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