表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/14

始まり

 テントに戻ると、スイが珍しく眠そうにしていた。

 そのことをヒイナが指摘すると、



「はぁー。あんな煌子の濃い場所に長居したら、誰だって疲労困憊しちゃいますよぉ。誰かさんも駄々をこねてくれましたしねぇ?」

「うっ。その節はどうもすみません…」

「埋・め・合・わ・せ♡ 期待してますねぇ」


 二人はどちらともなくクスクス笑った。

 ひとしきり笑って、不意にヒイナがポツリと漏らした。


「変換器……いつまで持つのかな?」

「……なるようにしか、ならないでしょうねぇ」


 変換器とは、煌子エネルギーそのものを栄養に変換して、人間に供給する、いわば高性能で無尽蔵。けれど乱暴な点滴のことである。

 結晶人によって人類生存圏の8割以上も結晶化されてしまった土縁では、安定した食料供給など見込めない。ゆえに、煌子変換器は文字通りの生命線なのである。


 そして機械である以上、永遠には稼働してくれない。

 何時かに起きるかもしれない最悪の事態に備えて、ヒイナ達は部品集めに駆り出されているのだ


「そ、そういえばヒドいんだよ! さっきね、ヒイナちゃんのパーカーをダサいって言ってくる子がいて!」

「や、まごうことなくダサいですよぉ。その子が正しいですねぇ」

「スイちゃんまで! ひどい!」


 少し暗くなってしまった空気を入れ替えるように2人は楽しく雑談して過ごした。




 ──



「………ヒイナちゃん……ぬくもり……」

「ううーん……ぐるじぃ……締め付けないでぇ……」


 ヒイナは抱き枕がないと眠れない。

 なのでいつもはお気に入りのくまさん人形(拾い物)を抱いて寝ているのだが、この日はどういうわけか、クマさんが滅茶苦茶に締め付けてきていた。

 明らかに人肌と思われるぬくもりを感じる…。






 

「……フォトン臭」



 静まり返ったテントに、かすれたセイラの呟きが響いた。



「!!!!!!!!!!」



 机を蹴り倒しながらセイラは起き上がる。


「2人とも、起きて!! 襲撃よ! ヤモリが攻めてきてる! 煌子纏鎧を展開して!」

「んえっ! …スイちゃん? なんでヒイナちゃんの毛布に潜り込んでるの?」

「いっ、今はそれどころじゃないですよぉ、煌子纏鎧を展開です! ホラホラ!」



 煌子纏鎧。

 読んで字のごとく、煌子を編んで身に纏う鎧のことである。煌子は理論上、無制限にエネルギー供給が可能とされている。ただし、受容側が持たないので、あくまでも机上の空論。

 煌子纏鎧は、適合者の素質ありきとはいえ、高い防御力を誇ることは間違いなかった。


 戦闘態勢を整えた三人はテントから飛び出す。

 


 ──そこはもうすでに地獄であった。

 至るところに結晶が生え、地に倒れ伏す人々には青白く透き通る結晶がこびりついている。

 正味、今この瞬間、ヒイナ達が生きているという事実自体が奇跡といって過言でなかった。

 ハクロク跡地にいた人類はすでにもう、全滅手前──下手すると全滅するところまで攻撃されているのかもしれなかった。



 「……なんてことなの。ここまでやられるまで気が付けないなんて……」


 歯噛みするセイラ。


「……ダメみたいですねぇ。完全に結晶に侵食されてます。コレもう、完全にヤモリの卵ですよ」


 死体を検分していたスイがため息混じりに言った。そして、心底気が進まなそうに続ける。


「はぁ。この人たち、砕いちゃわないといけませんねぇ」

「……………ッッ!」


 ヒイナは強く歯噛みした。こんなことになるまでのうのうと眠っていた自分を恥じていた。

 そして何よりも、自分自身の無力さを恨めしく思った。


「──アタシ、やる」

「ヒイナ?」

「ヒイナちゃんは……みんなの希望だから、ね。……希望なんだから、やらなきゃ」


 ごめんなさい。

 ヒイナは心の中で謝って、ソレを介錯した。


「…………っ」


 忘れちゃいけない。

 この人がいたんだって、こういう最期を迎えてしまった人がいたんだってことをなかったことにしちゃいけない。

 ヒイナは反射的に砕けたカケラを拾うと、懐へ大事にしまい込んだ。


「また無意味に背負って…」


 小さく漏れたスイの呟きは、ヒイナの耳には届かなかった。


 「……っ、二人とも、警戒して!」


 セイラの指示が飛ぶ。


 ギチギチ。ギリギリ。

 聞き馴染みのある甲高い金属音。

 そちらを向けば、やはり。結晶人だ。

 しかし、いつもやり合っている弱っちいやつとは見た目が違った。全体的に一回り大きく、頭部は特に大きい。よりトカゲに近づいた頭部の──口腔だろうか。ソコを大きく空けて、いっそう大きな金切り声をあげた。


「! 二人とも、下がって!」


 ヒイナが一歩前に出て、結晶人の攻撃を大剣で受け止めた。


「ああもう! 敵の攻撃を受け止めるのは私の仕事っていっつも言ってるのにっ、ヒイナちゃんは!」

「言ってる場合じゃないわ! 援護するわよ!」


 スイが放つ風魔法、セイラが放つ氷魔法が結晶人を掠めた。牽制されているとわかったのか、飛び退く気配を見せたソイツを力任せに跳ね飛ばす。

 足を踏ん張る。ヒイナの周囲のアスファルトが陥没し、近場の結晶が余波で砕け散る。


「必殺! 結晶粉砕ぃ……デストロイヤーッ!!」


 力任せの真っ向唐竹割りが、雑居ビルの残骸もろとも、結晶人を粉砕した。

 攻撃の余波で残骸が降り注ぐ中、ヒイナは大きく息を吐く。



「……なんとか倒せたわね」

「一匹二匹ならどうにでもなるでしょうけどねぇ。ヤモリお得意の人海戦術されちゃうと……」


 スイはその先をあえて口にしなかったが、ヒイナもセイラも察していた。

 

「……とにかく、ここを離れましょう。あまりに危険だわ」

「待って! まだ無事な人いるかもしんない! 助けなきゃ!」

「まぁだネムネムですかぁ? ヒイナちゃん。……こんなにしっちゃかめっちゃかにされてるんじゃあ、生き残りなんか居っこありませんよぉ」

「喧嘩してる場合じゃないでしょ、二人とも! 行くわよ!」


 セイラに促されて、移動を開始する。ヒイナも不承不承の顔だが、文句は言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ