天喰姉妹
ヒイナがユイと出会って一週間。
それなりに鹿目での生活に馴染んできていた。
「ヒナっちなになにチッチッチッ〜。クワと鎌のどっちがお好みチッチッチッ〜」
「いーや。ヒイナちゃんは最強なので、パンチでやっちゃいますよ☆」
「おお! そりゃすげぇ♧」
「いや、ヒイナさんの馬鹿力でやったら畑吹っ飛んじゃいますよ!!」
今日もコサメのツッコミが冴えわたる。
コサメは姉様がもう一人増えたみたいと嘆いてみせるが、どこか嬉しそうだ。
「いいですか、ヒイナさん! 畑仕事はね、やる気と根気と思いやりなんです。生き物を育てるんですよ、力任せにパンチしたら滅んじゃうでしょ!」
「うぇ、そうなの? ヒイナちゃんはじめて知っちゃった。
教えてくれてありがとう、コサメせんせー☆」
「べ、別にっ! お礼を言われるようなことじゃありませんよ!」
「お、照れとる♧」
「姉様は黙ってて!」
うがーっ! と叫ぶコサメ。
コサメは相手に真っ向から向き合う子なので、どんな言葉を投げかけても、きちんと反応を返してくれる。アヤメがからかいたくなる気持ちは、ヒイナにもわかった。
「いいですか、クワはね、腰を落として、こうやって──ふん! とう! たあ!」
「おお! よくわかんないけどかっこいい動き☆ 必殺技みたい☆」
「あー……ちなみにヒナっち、アレは参考にしなくていいからね。勘違いされがちだけど、コサメってけっこう、見た目重視の変なやり方するのよ」
ヤレヤレと首を振るアヤメ。
ヒイナは久しぶりに感じるような、心の安らぎを覚えていた。そう、まるでスイやセイラといる時のような──。
「お、天喰さまと明星さまでねえでか。ども」
釣り竿を肩に掛けた男性が声を掛けてきた。
アヤメは人懐っこい笑みを浮かべてブンブンと手を振った。
「ヤヘエっちじゃん! やほやほ♧ 釣りすんの?」
「おうさ。今日はたんまり釣り上げて、カカアと倅に腹いっぱい食わせてやるんだど!」
「いいじゃん! ところで……ひとつお願いがぁ……」
「仕方ねぇべな。でも、ウチの分が優先だど。期待はすんでねぇど」
釣果をねだるアヤメに仕方なさそうに頷く彼に、遠慮や敬意は見当たらない。親しみだけがあった。
ではの、と去ってく背中に、アヤメはくふふ、と含み笑いながら手を振った。お魚お魚♪ と鼻歌まで歌っている。
「知り合いです?」
「そだよ♧ 友達。アヤメセンセーは鹿目城下のすべての住人と友達に……なりたいからね♧」
「おお……、かっこいい☆」
天喰姉妹はヒイナにとって、とても好ましい人物たちだった。だからすぐに友達になれたし、実母のサクラも、優しい人だと思う。
だからこそ、分からなくなる。
鹿角唯姫の正体が。彼女は本当に、歴史に語られるような裏切り者なのか? 少なくとも、あの日、天守閣で話した彼女はむしろ仁君めいて見えた。
この優しい天喰一家に慕われて、こんなにも幸せな鹿目城下を作れる人が、裏切り者だなんて、ヒイナにはとても信じられなかった。
ならばきっとここは異世界なのだろう。異世界であってほしい。それならば、帰る手段を探しに行けるから。ヒイナは願うように思った。




