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巣立ち

「ごめんなさい、止めないで! ヒイナちゃん、あの人のもとへ行くわ! だってこの気持ち、もう抑えられないの☆彡」

「……いや、止めないけどね」

「ええ。止めませんよね、お嬢様」

「反応が冷たい!」


 ヒイナは憤慨した。

 もっとヒイナちゃんのことを惜しんでよ! 


 一晩考えた。

 物凄く残念な頭脳を振り絞って必死に考えたヒイナは、結局納得のいく答えを導き出せなかった。

 けれど一つだけ、確かなことがあった。故郷と繋がるかもしれない情報を一つだけ持っていた。


 ──鹿角領主に会ってみる。


 ご飯をもらって、宿まで貸してもらった恩を全然返せてはいないけれど、不義理とわかって旅立ちを告げた彼女達の反応がこれである。

 不義理を責められるかもと思って、ついふざけてしまっただけにちょっぴり拍子抜け。


 しかし冷たい!

 ふざけたヒイナも悪かったかもしれないが、もっと──こう、涙ぐましい別れが欲しかった。抱き合ってわんわん泣き喚く的な。

 でも、ちょっと安心する。

 だって別れは必定なのだ。ヒイナの居場所はこの世界(ここ)じゃない。あの地獄のような世界だから。


「でも、考えなしにお城まで行って、果たして会ってくださるのかしら。いくら鹿角さまがお優しいと噂でもねぇ」

「ぅ! ……ソコは、行って考えます☆ ヒイナちゃんってばもう、すんごく可愛いから、案外向こうから声がかかったりして?」


 サヨが言う当然の疑問に図星を突かれるが、ヒイナはくじけなかった。

 スイが聞いたらお顔洗ってきなさいと言われるだろう発言をすると、ミオに鼻で笑われた。



  ───



「それじゃあ、ヒイナちゃんは行きますね。……あと、その。ご恩返しをちゃんとできてないのに、不義理をすること、謝ります! ごめんなさいっ!」

「なぁに。気まずそうだなって思ったらそんなこと。気にしないでいいのよ。好きでやったことだもの」

「そうですよ。最初に言った通り、お嬢様は人助けが趣味の変な人ですので、気にしちゃいけません」


 いよいよ別れだ。

 茶屋の前まで見送りに来てくれた二人へ、このままじゃいけないと切り出した。

 そんなヒイナに、温かい声。

 恐る恐る顔を上げると、二人とも仕方ない子を見るような笑みを浮かべている。

 そしてぽんっと、二人分の掌を乗せられると、ヒイナの髪はぐちゃぐちゃにかき回されてしまった。


 ヒイナは無性に泣きたくなった。

 喚き散らして二人に縋り付いて、一生ここに居たかった。サヨやミオといた時間は、ヒイナのさして長くもない人生で、もっとも幸せな時間だった。

 けれども、決して永続してはいけない幸福だった。


 内心の寂しさを誤魔化すように、ヒイナはことさら明るい笑顔を浮かべる。


「──っ。もうっ!せっかく整えた髪が台無しになっちゃいましたよっ。でも、ヒイナちゃんは可愛いから仕方ないのかも☆」

「そうだねぇ。ヒイナちゃんはわんころみたいにかわいいから、撫でくりしたくなっちゃうよ」

「……っ」


 二人分の優しく見守る瞳が、ヒイナを撫でる。

 できるだけ丁寧に礼をして、とびっきりの笑顔を浮かべた。


「じゃあ、ヒイナちゃんは本当に行きますね☆ 本当の本当に、お世話になりましたっ」


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