第二十一章 全国の警備網
守護局が発足してから三ヶ月が経った。
組織は少しずつ形になりつつあった。
王都の警備体制は強化され、不審者の発見件数は以前の三倍に増えた。市民からの信頼も高まり、情報提供が増えた。
しかし、誠一の目標はもっと先にあった。
「全国に支部を設置する」
幹部会議で、誠一は計画を発表した。
「王都だけでは不十分だ。魔王軍は王国全土に浸透している。それを監視するためには、全国規模の警備網が必要だ」
「具体的には」
リーゼロッテが尋ねた。
「主要な都市に守護局の支部を設置する。各支部には数人の隊員を配置し、地元の治安維持と情報収集を担当させる」
「人員は足りるのか」
「現状では足りない。新規採用を進める」
「予算は」
「国王陛下から追加予算を頂いた。当面は何とかなる」
ガルバスが腕を組んで言った。
「計画は壮大だが、実現できるのか」
「時間はかかる。しかし、やらなければならない」
誠一は地図を広げた。
「まずは東部のエルステン、南部のマルセナ、北部のノルドハイムに支部を設置する。これで王国の主要地域をカバーできる」
「西部は」
「西部は王都に近いから、当面は本部から対応する。余裕ができたら、支部を設置する」
誠一は地図上の各都市を指さしながら、詳細な計画を説明した。
支部の規模、人員配置、情報伝達の仕組み——すべてが緻密に計算されていた。
「さすがだな」
ゴルドが感心した。
「お前、本当に元警備員なのか? 軍人みたいだ」
「警備の仕事は、軍事に似ている。規模が違うだけで、やることは同じだ」
「そうか」
会議が終わり、各自が自分の仕事に戻った。
誠一は一人残り、地図を見つめていた。
「本当に、できるのか……」
自問自答が浮かんだ。
王国全土に警備網を張り巡らせる。それは、途方もない大事業だ。
しかし、やらなければならない。
魔王軍は今も暗躍している。次の攻撃がいつ来るかわからない。
その前に、守りを固める。
それが、誠一の使命だった。
* * *
一ヶ月後、最初の支部がエルステンに設置された。
誠一自ら現地に赴き、支部の開設式に参加した。
「王国守護局エルステン支部、本日より業務を開始します」
支部長に任命されたのは、元騎士団の若い騎士だった。リーゼロッテの推薦で、守護局に転籍してきた人物だ。
「支部長、よろしく頼む」
「はい、局長。全力を尽くします」
支部の規模は小さかった。隊員は支部長を含めて五人。建物は小さな事務所一つだけ。
しかし、これが始まりだった。
「局長、エルステンの治安状況について報告があります」
支部長が書類を差し出した。
誠一は書類に目を通した。
エルステンは東部国境に近い都市だ。先日の魔王軍侵攻では、最前線となった場所でもある。
「不審者の目撃情報が増えている……」
「はい。復興作業の混乱に紛れて、魔族の工作員が潜入している可能性があります」
「調査を続けてくれ。何か分かったら、すぐに報告を」
「了解です」
誠一はエルステンを後にし、次の目的地へ向かった。
マルセナ、ノルドハイム——次々と支部を設置していく。
各地で、守護局の存在が知られるようになった。
「王国守護局?」
「騎士団とは違うのか?」
「警備専門の組織らしいぞ」
市民たちの反応は様々だった。歓迎する者もいれば、警戒する者もいた。
しかし、誠一は地道に活動を続けた。
巡回を行い、不審者を監視し、情報を収集する。
それは地味な仕事だった。しかし、確実に成果が上がっていた。
* * *
半年後、守護局の警備網は王国の主要都市をカバーするまでに拡大した。
本部と各支部は、定期的に情報を交換していた。伝書鳩と魔法の通信装置を組み合わせた、独自の情報伝達システムが構築された。
「局長、南部マルセナ支部からの報告です」
「何があった」
「不審な商人団が通過したとのこと。荷物の中身が不明だそうです」
「追跡を指示しろ。行き先を把握する」
「了解です」
このような情報のやり取りが、毎日のように行われていた。
点と点が線で結ばれ、パターンが見えてくる。
「局長、これを見てください」
エルナが分析結果を持ってきた。
「最近の不審者情報を地図上にプロットしました。すると——」
エルナが指さした先には、一つのパターンが浮かび上がっていた。
「王都に向かって、収束している……」
「はい。複数のルートから、少しずつ人や物資が王都に集まっています」
「魔王軍の準備か」
「おそらく」
誠一は地図を見つめた。
魔王軍は、再び何かを計画している。
しかし今度は、その動きが見えている。
「全支部に警戒態勢を伝達しろ。王都の警備も強化する」
「了解です」
エルナは走り出した。
誠一は窓の外を見た。
嵐が近づいている。
しかし今度は、準備ができている。
「来るなら来い」
誠一は呟いた。
「今度こそ、阻止してみせる」




