ep3 教科書の違和感
副業で始めた小さな事務仕事は、日常の景色を少しだけ変えた。
書類の端に並ぶ文字は、普段の自分の生活ではほとんど目にすることのないものだった。
「国債」「金利」「インフレ」——
意味は完全には理解できなかった。
それでも、数字を前にして、胸の奥に小さなざわつきが生まれる。
教科書的にはこう説明されている。
国債
政府が資金を調達するために発行する債券で、発行によって得た資金は道路や教育、防衛など公共サービスや財政赤字の補填に使われる。国民や投資家に利息を払うことで資金を借り入れる仕組みだ。
金利
お金を借りるコストや貸すリターンの割合。中央銀行は政策金利を上下させることで、景気の加熱や冷え込みを調整する。景気が過熱すれば金利を上げて消費や投資を抑え、冷えれば下げて刺激するのが基本の役割だ。
インフレ
物価の上昇を意味する。適度なインフレは経済活動を活性化させるとされ、購買力の変動を抑え、賃金・価格・金利のバランスを保つ役割を持つ。逆に物価が下がり続けるデフレは、消費や投資が冷え込み、経済全体の停滞につながると教科書では説明されている。
紙の上では合理的で、理解しやすい理屈で、数字の世界はきれいに回っていように思える
だが、目の前の自分の生活と照らすと、どうも釣り合わない。
給料は横ばい、住宅ローンの審査は静かに弾かれ、親の介護や自分の老後は少しずつ迫る。
経済の教科書が描く理屈は、この生活の重さを軽くすることはなかった。
教科書的には正しい理屈でも、現実の生活には別の力が働いている——そんな予感が胸の奥に芽生えたのだった。




