ep.1 複利の外側:日常(見えない圧力)
朝の光は薄く、アパートの小さな窓をかすかに白く染めていた。
主人公は布団を畳み、冷たい床に足をつけながら簡単な朝食をとる。パンとインスタントコーヒー。
テレビでは株価最高値、景気回復、雇用改善のニュース。
だが、財布の中身は昨日と同じまま。
小さな声が頭の片隅をかすめる。
「…これって、俺が何か間違えたから?」
会社に着くと、正社員の責任も背負いながら、非正規の待遇しか受けられない日常が待っていた。
給料は横ばいで、税や社会保険だけが少しずつ増えている。
最近では外国人労働者も増え、ニュースでは最低賃金が少し上がったと言う。
だが、自分の給料を見ると、20年前と比べてもほとんど変わらない気がする。
胸の奥に小さなざわつきが広がる。
頭の片隅で、小さな疑問が芽生える。
「技能実習生って、見かけ上は最低賃金を守っているだけで、実質はほとんど変わらないのでは…?」
さらに考える。
派遣や非正規の労働者は、インフレで名目上は少し改善しても、実質的には生活のギリギリの中で揺れ続けているのではないか。
答えは出ない。ただ、胸の奥がざわつくだけだ。
住宅ローンの事前審査の通知が届く。
紙には淡々と「基準に満たず」と書かれている。
理由は曖昧で、数字の羅列だけが冷たく並ぶ。
「これが、普通の人生への入り口だったのか…」
主人公は思う。
夜、家に戻ると、親の介護の話が現実味を帯びてくる。
自分の老後、そして時間の流れ。
負担は少しずつ積み重なり、逃げることもできない。
努力で報われるはずの言葉は、遠くの物語のように感じられる。
テレビを眺めながら、今日も静かに考える。
世の中は確かに動いている。
だが、自分の世界は変わらない。
重さだけが、年ごとにじわりと増していく。




