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続・彗星の如く消えた小説家

作者: 沢 一人


真っ暗闇のメラニン色素の中、作家のサワ(沢)は固まっていた。

彼は、過労の末に肉体から剥離した、自身の

「目の下の隈」の塊になってしまっていた。


『このまま死んでいいのだろうか? いや、それは、いけない。何としても生き還らねばならない』


彼の意識は、分厚い色素の層に閉じ込められていた。


『私にも多くのファンが、いや、少しの、いや、一人や二人、いや……。』


サワは、数えるのをやめた。


沢は、神にすがった。『もし、生き還る事が出来たらペンネームを変えてもいいです。隈一人になります』


隈は考えた。どうしたら生き還るか。


「♫帰ってきたぞ、帰って来たぞ。」 はウルトラマンだし。


「♫ドッコイ生きてる隈の中〜。」 は、ピョン吉のパクリだと直ぐにバレる。


「そうだ、あの手がある」


隈はかつて沢が創作した、あまりにくだらない短編小説のアイデアを思い出した。 


短編小説:『心の漂白クリーナー』だ。


そうだ、テレビショッピングで復活しよう。


あのブースカだって20年後にCMで復活したではないか。(若い人には分かるまいが。)


テレビショッピングのブース。


クマモンならぬ隈モンのCMが始まった。


「皆さん、最近笑いが無くなったとお悩みの方いませんか?」


モニターに映し出されたのは、メガネを掛け、ハゲた、哀愁漂う黒い人形だった。


「今日ご紹介するのはポータブル人形の隈モンです。決して、くまモンのパクリではありません。


御覧下さい、メガネを掛けてハゲてるでしょ。

頭をポンっと叩くと訛った声で『涙の操』を歌います。♫わ〜たすがぁ〜。」


CMは無事終わったが、売れ行きはゼロ。

誰一人見向きもしなかった。


所が、拾う神は居るものである。


たった一人だけ、この商品を買う者がいた。


それは、沢夫人だった。


隈は泪を流して喜んだ。『母ちゃん有難う。愛してます』


こうして隈モンは、沢宅の門をくぐった。


玄関を開ける。


そこに待っていたのは、涙と抱擁ではなかった。


懐中電灯のスポットライトだった。


サワ夫人は、懐中電灯を隈モンに鋭く浴びせ、冷たい声で言った。


「どこだ、目の下に。 あなたが最後に残したメッセージを読んだわ」


隈は、思わず体が硬直した。そして、サワ夫人は続けた。


「あなた、この人形、五千円もしたのよ。その金があったなら、あなたはちゃんとした食料を買って、熊にならずに済んだんじゃないの?」


隈モンは、ハゲた頭をポンと叩かれても、「わ〜たすがぁ〜」と歌う代わりに、ただ小さく嗚咽するばかりだった。


サワ夫人は、隈モン人形を無造作に新聞紙で包み、そのまま台所の隅に置いた。


その隣には、賞味期限が切れたコーヒー豆が一粒、寂しそうに転がっていた。


隈は知った。彼の「目の下のクマ」は消えても、この家の「食糧危機」という名の本当のクマは、まだ終わっていなかったのだ。


         完

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