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第9話<カミサマが居ない>


脳裏に浮かぶのは傷ついたようなカミサマの顔。私はそれを振り払うように、枕に自分の顔を押し付けた。

あれからカミサマのことを振り返らないで逃げるように家に帰った。幸い、あんなことがあったせいか担任も勝手に帰宅したことを咎めなかった。


『どうして僕が彼の怪我を治さないといけないんですか?』


そう聞いたときのカミサマの不思議そうな顔が頭から離れない。

あの時、カミサマと私は違う「モノ」なんだって悟った。どんなに似ていたとしても、決して相いれない。――あの声が言うように。

私は何も知らなかったのだ。知ろうともしなかった。

だから代償を支払ったのだ。

一人で悶々と考えていたら、部屋のドアを外側から叩かれた。振り返れば電話の子機を持った母親の姿。


「電話よ」

「誰から?」

「新城君」


意外な名前に、私は驚いた。それを受け取れば保留音が流れている。

通話ボタンを押し「もしもし?」耳にそれを押し当てた。すぐに新城君の声が返事を返してくれる。


「もしもし? 櫻井?」

「うん。あの、怪我は……?」

「大したことないから気にしなくて大丈夫。縫うこともなかったし」


明るく返ってきた返事に安堵の息を洩らす。そんな私の様子が電話越しでも分かったのか、新城君が電話の向こうで笑った。

良かった。思っていたよりは怪我はひどくないみたい。


「あのさ、」

「うん?」

「宵宮の、約束なんだけど……」


忘れてた。そういえば宵宮に一緒に行く約束してたんだ。

それを思い出すと同時に、カミサマのことも思い出した。途端に、嫌な気持ちも一緒に思い出される。

カミサマに対する不信感にも似た気持ちは、消えるどころか増すばかりだ。


「行くよ。約束したもん」

「ホント? じゃあ明日、公園で待ち合わせしよう?」


弾んだ声。私はそれに頷いて電話を切った。途端にドッと疲れが全身を襲う。慣れないことをしたから、なんだか変に気疲れしてしまった。

考えてみれば、カミサマに憑かれてから人と話すことが格段に減った。まぁ、何もない空間に向かってぶつぶつ独り言を言う人間に近づきたいと思う人なんかいないよね。

だから学校でも特に親しい人なんか居なかった。カミサマが居たから寂しい、なんて思ったことなかったけど。


「っ、」


そんなことを考えて、唇を噛んだ。嫌な事実に気づいてしまった。

カミサマ(、、、、)が居たから、寂しいと思ったことがなかった。それこそ文字通り憑いていたから。


「……いやいやいや。カミサマが居るから人との付き合いが減ったんだって」


落ち着け、私。全ての元凶はあいつじゃないか。あいつが私に憑いたから浮いたんだって。


ふと、カミサマと初めて会ったときを思い出した。


子供のころ目的も分からず外へ飛び出したことがある。どこへ行くのかも分からず、ただ走った。言いようのない焦燥感と心細さ。それだけが私の足を突き動かして。

だけど最後には疲れて足も動かなくなった。目的もなく走り続けたからそこがどこかも分からなくて。

寂しさから泣いた。泣きながら誰か(、、)を求めていた。


そんな時だ。声が聞こえたのは。


『泣かないで。一人じゃないよ』


頭を撫でる優しい手。その温もりに心が安堵した。温かな手に引かれ、家へと歩く。泣く私を慰めるように小さく歌を歌いながら。


『困ったら僕を呼んでください。僕は必ず君の元に行きますから』


そんなことを言って私に微笑んで。その微笑みに心から安心した。

カミサマが居て、安心したのだ。


「……呼んでないのに来たけど」


当時のことを思い出してクスリと笑ってから、知りたくなかった事実を思い出した。なぜか冷や汗が背中を伝う。


「私、カミサマの名前、知らないかも……」


思い出せる限りの記憶を遡る。だけどカミサマの名前はちっとも出てこなかった。

私が思い出せないのか。カミサマが伝え忘れたのか。

しばらく考えて、私はベッドへと寝転がった。知るもんか。カミサマの名前なんて。

知らなくたって困らない。だからもう考えるのは止めよう。


「関係ないんだから……」


呟いて、言いようのない物寂しさを紛らわす。

カミサマなんて関係ない。そう言い聞かせて、寂しいと囁く自分を誤魔化した。






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