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第7話<夢の終わり>


この状況をどうやって打破すべきか。私の頭の中はそのことでいっぱいになった。

どうにかしなきゃいけない。だがどうすればいいのか分からない。頭の中は空回りだ。

そんな私のことなんかそっちのけで、カミサマは上機嫌(、、、)に新城君を見つめる。はっきり言って気持ち悪い。


『馴れ馴れしくするだけでなく柚季ちゃんを逢い引きに誘うなんて……』

「逢い引きって……」

「櫻井? さっきからどうかしたの?」


ぶつぶつ呟く私に新城君が変な顔をする。

あぁ……。絶対に変な子だって思われた。……もっと前から思われているかもしれないけど。

思わずため息をこぼす私とは対照的に、カミサマは楽しそうだ。それが不気味でもある。


『柚季ちゃんが気になる気持ちはよぉーく分かります。僕の柚季ちゃんはとっても可愛いですからね!』

「いつお前のになった……」


私の言葉を、カミサマは華麗に無視した。おい。着物の帯を引っ張ってやろうか。……喜んだらどうしよう。

カミサマはにこにこ笑いながら新城君の目の前に立つ。その瞬間、カミサマから笑顔が消えた。

身にまとう雰囲気が明らかに尖ったものになり、私の肌が粟立った。冷や汗が背中を伝う。


『本当に、どうしてくれましょうか……』


表情の消えたカミサマは人間らしさがなくなり――元々、人間ではないのだが――近寄りがたい雰囲気が辺りに漂う。

威圧感が増し、息苦しくなった。それは見えていない新城君も感じたのか、不安そうに辺りを見回す。

カミサマが一歩、こちらに足を進める。私はそれを見ていた。――否、見ていることしかできなかった。


「カミサマ……?」


カミサマが何を考えているのか、分からない。なんだかカミサマがものすごく遠い人に思えた。

私の呟きが聞こえたのか、カミサマが優しく笑う。それから右手を振り上げた。


直感だった。ただ、何かが起こる。そう思ったから。


「――危ない!」


新城君の側にある窓に写った影。私はとっさに新城君の右手を掴んで引っ張り寄せる。

その瞬間飛んできた影――野球の硬球が窓をぶち破った。窓ガラスが粉々になって降り注ぐ。

とっさに顔を伏せるもそれらは容赦なく私たちに降り注いだ。

頬が痛い。そう思ったときには生暖かい何かが頬を伝うのを感じて。

あぁ、斬れたな。無感情な私が心の奥で囁いた。


『柚季ちゃん!』


今にも死にそうな声を上げたカミサマを見れば顔面蒼白だった。

駆け寄ろうとするカミサマは無視して私は足元にうずくまる新城君を助け起こす。

新城君は額と頬、腕なんかも切っていた。流れ出る鮮血に、冷や汗が流れる。


「大丈夫!?」

「俺は平気。それより櫻井は…?」


私のことを気遣うように見上げる彼に、私は首を横に大きく振った。そんな私に彼が安心したように笑う。

とにかく保健室に連れていかなきゃ。血もひどいし。そう思って、新城君の体を支えながらゆっくり立ち上がらせた。

歩き出した彼の体を支えながら保健室に向かう。カミサマは相変わらず青い顔をしていた。


『柚季ちゃん…』


何かを言い募ろうとするカミサマの目から、私は目を逸らした。カミサマが息を呑むのが分かる。

何をしたのかは分からない。でもカミサマが何か(、、)をしたのは分かった。


初めてカミサマが怖いと思った。


感情の読めないあの表情が。垣間見えたあの冷酷さが。

まるで知らない人のようで。どうしようもなく怖いと思った。


保健室の先生は血塗れの私たちを見てびっくりしたようだった。私たちはとりあえず椅子に座らされる。

新城君は出血のわりには傷は浅かったらしく、その出血も今は収まっていた。私も頬と手の甲を切ったくらいで大きな怪我はしていない。


「良かった…。怪我、そんなにひどくなくて」

「見た目悪いけどね。そんなに傷とか深くないから大丈夫だよ」


新城君はそう言って安心させるように笑うけど、それが痩せ我慢だってことは気づいていた。痛くないはずがない。

体のあちこちに裂傷の跡が見えた。新城君はこのまま病院に連れていかれることになっている。本人は大袈裟だ、なんて言うけど。

新城君はそのまま保健医に付き添われて病院に向かった。それを私は黙って見送る。

背後に誰かの気配を感じた。誰か、なんて分かりきってるんだけど。


『……柚季ちゃん……』


いつまでたっても振り返ろうとしない私に、カミサマが遠慮がちに声をかける。そこでようやく振り返れば、情けない顔をしたカミサマが居た。


「なに?」

『…………』

「私、怒ってるんだけど」


そう言ったならカミサマがますます情けない顔をする。その顔はさっきのとはまるで似ても似つかなかった。

さっきのはいったいなんだったんだろう。触れたら斬れそうなほどの威圧感。


あれが本来のカミサマなら、私が見ていた彼はなんだったのだろうか。





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