第6話<触らぬ神に……?>
「……今、なんて?」
「だから、その……付き合って欲しいんだ!」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。恐ろしいことに。
生まれて17年と少し。告白なんて生まれて初めてされた。初めてのことに私の脳は完璧にショートしている。
新城君が頬を赤くさせて私を見ている。頬が赤いのは告白したからで、私は彼から告白されて――。
「……本当に?」
やっぱり信じられなくてもう一度聞いてしまった。目を丸くして固まる私に、新城君が笑う。
ちょっと待って。まさかそんな。頭の中はかつてないほど動いているのに、空回りしているのが分かる。
「本当だって。櫻井が好きだ」
「だってそんな……。あんまり話したことだってないのに……」
狼狽えてそんな言葉が口からこぼれ出る。そんな私に新城君は困ったような顔をした。
「好きになるのに、時間とか理由とかいるのかな」
「え?」
「気がついたら櫻井が好きで、自覚したらどうしようもなかったんだ」
……どうしよう。これはかなり、グッときた。
自分で言うのもあれだけど、私はこういうのに免疫がない。しかも女の子としては恋愛に多少の憧れはあるもので。
とどのつまり、今の告白は私のストライクゾーンど真ん中だったのだ。
思わず顔が赤くなる私を見て、新城君が頬を緩ませる。それがなんだかくすぐったいような気がして、私は新城君から目を逸らした。
「あの、ね? 新城君のこと、そんな風に見たことなかったから……なんていうか……」
「うん。分かってる。すぐには考えられないよね」
新城君の優しい言葉に気が緩むのを感じた。同時に少しだけ恥ずかしくなる。
告白されたのに、私ったらもう少し気の利いたこととか言えないかな。……経験がないから無理か。
一人狼狽える私を見て新城君は落ち着いたのか、穏やかな笑顔を浮かべていた。そのことに少しだけムッとする。
そんな私の気持ちを察したのか、新城君が慌てたように手を振った。
「櫻井が俺を意識してなかったことは分かってる。だからさ、これからはそーゆー風に見て欲しいんだ」
「そういう風?」
「恋愛対象として」
はっきり言われて自分の頬がカッと熱くなるのが分かる。
恋愛対象。それは新城君を恋人にできるかどうかを考えるということで。
「恋愛対象…」
呟く私に新城君が大きく頷いた。その顔は真剣で、妙に拒絶させないだけの迫力がある。
戸惑いながらも私が頷けば、新城君はあからさまにホッとした表情になった。それから嬉しそうに笑う。
「それじゃあさ、その第一歩ってわけじゃないんだけど」
「うん?」
「今度地元で祭りがあるんだ。一緒に宵宮に行かない?」
そう言って新城君が取り出したのはよれよれになった祭りのチラシ。折っていたシワが深くなっていて、それだけで新城君が何度もこれを見ていたことが分かった。
好きかどうか、それは正直に言うと分からない。新城君は良い人だし、話しやすい。でもこれは恋愛感情には直結してないと思うし……。
悩む私の様子に、新城君の眉が情けなく垂れ下がる。それが置いてけぼりにされた子犬のようで、私はついつい頬が緩んだ。
「宵宮くらいなら……」
「本当!? 一緒に行ってくれるの?」
「うん」
頷けば新城君がガッツポーズ。それが本当に嬉しそうにで、私は恥ずかしくなった。
初めてのことだから悩むこともあるけど、せっかくだから前向きに捉えよう。私のことを好きだと言ってくれるなら。
――なんて思っていたら。
『ほぉー。僕の前でいい度胸してますね……』
地を這うかのような低い声。ぎょっとして新城君の背後を見れば、幽鬼のようにたたずむカミサマの姿が目に入った。
こ、怖い……!! なんだってあんな負のオーラを纏っているんだ。あれじゃ神様と言うより、悪魔だ。
顔を引きつらせる私を見て新城君が不思議そうに首を傾げる。
「櫻井? どうかした?」
「えぇっと……」
なんて言ったらいいのだろうか。どんなに考えたって上手い言い訳が思いつきそうにないのだけど。
目を泳がせる私をよそに、カミサマは怪しい笑みを顔をに浮かべた。人が悪そう。確実に神様がするような顔ではない。
『まったく……。油断も隙もない。あれほど柚季ちゃんに近づくなと言ったのに』
「いや、聞こえてないし」
思わず突っ込んでしまう。新城君が変な顔をした。カミサマが新城君を睨み、ニヤリと笑う。私はぎくりとした。
絶対に良くないこと考えている。私の本能がそう叫んでいた。