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第5話<嵐の前の静けさ>


チャイムが鳴ってから教室に戻ったからか、生徒はすでに席に着いていた。私は音をたてないようにして自分の席に戻る。

窓際の後ろから三番目。日当たり良好。教師からは絶妙に意識の逸れる場所だ。

私の後をつけるように教室に入ってきたカミサマは、いつものように教室の一番後ろに立つ。そうしてるとどこかの父兄が見学に来たみたいだ。


カミサマはいつも通りだった。いつも通り私の授業を見守り、目が合うとにっこり笑ってくる。

でもなぜだろう。それが今日はなんだか腹立たしいのだ。

…なんて。理由は分かりすぎるくらい分かってるんだけど。


『柚季ちゃんが大切なんですよ』


なんて言っていたのに。肝心なことはいつも隠してる。私、知ってるんだから。カミサマが時々、どこかを見つめていること。


「ここ」じゃない「どこか」を。


カミサマは気づいていないんだと思う。遠くを見つめる自分がどんな顔をしているのか。

懐かしいような、それでいて悲しそうな顔。そんなに気になるならどこにでも行っちゃえばいいのに。


――なんて。


思っていても口には出さないけど。結局、カミサマが居ることが当たり前なのだ。私にとっても。

言わないけど。調子に乗るのが目に見えるようだから。

カミサマは窓から見える子供たちを見ていた。通りを走る子供たちは何が面白いのか、にこにこ笑いながら駆けていく。

不思議。そうしてると神様っぽく見える。今朝言ってた神々しさもなんとなく分かるような気がした。


「顔はいいんだもんねぇ…」


顔の作りは人間のものとは思えない。(実際、人間ではないのだが)黙ってキリッとしてれば誰よりもかっこいいのに。

普段のカミサマったら変態だからその神々しさもさっぱり分からないよ。ってかこれが神様だなんて詐欺だね。


『かわいいですねぇ。昔の柚季ちゃんみたいで。…食べちゃいたい…』


だからその発言が変態染みてるんだって! 全身に鳥肌がたったから消しカスを投げつけてやった。


「……櫻井? なにやってんの?」


その言葉で我に返る。しまった。カミサマはあたしにしか見えてないんだった。

周りから見れば、何もない空間に必死に消しカスを投げる私という構図。……シュールだ。

カミサマはというと嫌がりながらもにこにこと笑っている。やっぱり変態だ。今度祓ってもらおう、と決意した。

渋い顔をして黙り込む私を、新城君が不思議そうに見つめる。


「どうかしたの?」

「え? いや、何でも…」


自分の行動が怪しかったことを自覚しているから、私は笑ってごまかした。

なんだか多いな、このパターン…。

新城君は首を傾げながらも、それ以上尋ねようとはしない。さっきもだけど、新城君は何も聞こうとしなかった。聞いても私が話さないって分かってるのかもしれないけど。

何も聞かないかわりに、新城君はまた私の前の席に座る。私はきょとんと新城君を見た。


「なに?」

「え?」

「用があったから座ったんじゃないの?」

「あー…」


新城君は困ったような顔をして目線を逸らす。変なの。私と新城君は特別親しいわけじゃないから、てっきり用事があると思ったのに。

向かい合って座る私たちの姿にカミサマが剣呑な表情になる。またこのパターンなのか。

急に腕まくりを始めたカミサマの着物の裾を踏み、新城君に向き直る。なぜか新城君は顔が赤くなった。

私はそんな新城君に首を傾げた。どうしたんだろう。風邪かな?


「えっと、さ…」

「うん?」

「………」

「新城君?」


私の言葉に新城君は意を決して口を開いて――チャイムが鳴った。

あまりのタイミングの良さに私も新城君も固まる。新城君はみんなが教室に戻ってきたのを見て慌てて席を立った。それから私のことを振り返る。


「あのさ、話があるから昼休みに渡り廊下に来てくれる?」

「渡り廊下?」

「そう」


真剣に私を見つめる新城君。その様子に、私は思わず首を縦に振っていた。それを見て新城君は安心したように笑う。

そのまま颯爽と戻っていった。爽やかだ。ちょっと騒がれる気持ちが分かった。


『…うわきものぉ…』


地の底を這うような声に驚いて振り返れば黒いオーラを纏うカミサマと目が合った。思わず一歩下がればカミサマに恨めしそうな目で見られた。

というかちょっと待て。浮気者だと?


「なんで浮気者なのよ」

『昼休みに呼び出しなんてちょっと考えれば分かるじゃないですか』


最初、カミサマが何を言ってるのか分からず固まり、すぐにその意味に気がついた。それから呆れてしまう。


「まさか告白されると思ってるの?」

『それ以外に何があるっていうんですか!』

「ないない。あり得ない」

『柚季ちゃんは自分の可愛さに気づいていなんです…!』

「仮にそうだとしてもカミサマに関係ないでしょ」


私が誰と付き合おうが結婚しようがカミサマには関係ないはずだ。そう思って言ったら神様が本気で傷ついたような顔をする。思っても見なかったその表情に私は何も言えなくなった。

カミサマは悲しそうな顔をすると姿を消す。「カミサマ?」呼びかけたけど、カミサマは姿を現さない。どうやらここには居ないらしい。

私はカミサマの傷ついた顔を思い返した。あんな顔をするなんて思ってもみなかった。

第一、告白なんてされるわけないのに。


――なんて思っていたら。




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