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第3話<カミサマの嫉妬>


壁に激突したカミサマがさすがに不憫に思えたので、私はカミサマに向かって手を差し出した。それをカミサマが不思議そうに見て、私を見上げる。


「ほら、」


カミサマの手を取って上に引き上げれば、カミサマがよろよろと立ち上がる。しばらく目を丸くしていたカミサマは私と繋がった自分の手を見て『…へへっ』と嬉しそうに頬を緩めた。私は思わず自分の手を引っ込める。

途端にカミサマが不満そうな顔をした。


『もうちょっと繋いでいたかったのに』

「変な声出すから」


ちょっと気持ち悪いって、思ったのは内緒だ。カミサマは私と繋がっていた自分の手を名残惜しそうに眺め、それから柔らかい微笑をその美しすぎる顔に浮かべる。

私はその優しい笑顔に思わず目を奪われた。カミサマがそんな顔をしたの、初めて見た。


『懐かしいですね…』

「え?」

『昔、手を繋いで歩いたことがありましたね』


しみじみと呟きながらカミサマの目元が和む。懐かしそうな顔をしているのは昔のことを思い出しているからなのかな。

カミサマとの出会いがどんなものだったのか、なんて全然覚えていない。覚えているのは繋いだ手の温もりと優しい歌声だけ。


『柚季ちゃんは昔から可愛かったですからね』

「…そう?」

『可愛かったですよ。笑った顔も泣いた顔も。かくれんぼをして僕が姿を消すと、決まって柚季ちゃんは桜の木の下で泣くんです。それで僕が慌てて姿を見せると、涙でぐしゃぐしゃになった顔を満面の笑みに変えて僕に抱きつくんですよ』

「……それってたぶん私じゃないと思う」


それは記憶に無い。絶対にカミサマの妄想だと思う。というか思いたい。

それでも昔のことを話しているカミサマはとっても幸せそうで、私はそれ以上否定することはできなかった。


「…ねぇ、」


問いかける言葉にカミサマがあたしを見る。


――私たち、いつ出会ったの?


そう聞こうと思ったのに。


「――櫻井!」


廊下に響いた声。びっくりして教室を振り返ればジャージ姿の新城君がそこに立っていた。

途端に隣に立っていたカミサマの周りがどす黒いオーラで包まれる。もちろん新城君はそのことに気づいていなかった。


「良かった。まだそこに居たんだ」

「…どうかしたの?」

「いや、ちょっと話があって…」


煮え切らない様子の新城君に私は首を傾げる。新城君は私に目を合わさず、困ったような顔をした。なんだろう。私、何かしたかな?

カミサマはそんな新城君の様子を冷ややかに見つめ、唇の端をゆるく持ち上げる。


『いい度胸ですね…。まだ柚季ちゃんに近づいてくるとは』


底冷えするようなその声に、私はカミサマを見上げた。あれ、笑っているのに目が笑ってない。というか人、一人くらいってそうな顔なんですけど。

物騒なカミサマの様子を見て、私はさりげなくカミサマと新城君の間に身体を滑り込ませた。それを見てカミサマが困ったような顔で笑う。


『いやだなぁ。いくら僕だってこんなところで彼を消したりしませんよ?』


どうだろう。カミサマならやりそうな気がする。――その証拠に。


『やるなら分からないよう、すばやく手短に。跡形もなく完璧にやります』


新城君を見つめる顔は怖かった。まるでモノでも見るような顔。私には決して見せないような…。

その冷徹とも言える視線がどうしようもなく怖くなって「っ、あの!」私は咄嗟に新城君に向かって口を開いていた。私の声に、新城君が驚いたように目を見開く。


「え?」

「用事があるから、あの…ごめんね」


それだけ言って私は教室とは違う方向へと歩き出す。困ったような新城君の顔を見た気がしたけど、私は足を止めなかった。

カミサマは当たり前のように私についてくる。その表情かおは心から心配してるって顔だった。さっきまでの表情はどこにもない。


『柚季ちゃん? どうかしましたか? まさかあいつが何かしたんですか? それなら今すぐに僕が天罰を…!!』

「……なんでもない。鬱陶しいから離れて」


邪険に扱えばカミサマは泣きそうな顔をした。でもその表情にホッとする自分が居る。

どうしてだろう。カミサマが「人間らしい」表情を失うと、どこか寂しく感じるのだ。

大切な何かが手からこぼれ落ちそうな気がして――…。

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