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第2話<カミサマとの日常>



学校に着いてもカミサマは私から離れようとしなかった。いつものことながらそのしつこさに辟易する。


「ねぇ、暇なの?」


皆にはカミサマは見えていないので端から見れば私が一人言を言っているように見えるはず。だから私はなるべく声を潜めて隣を見上げた。


『まさか! ものすごく忙しいです』


本当だろうか。四六時中、私に張り付いているからとっても暇そうに見えるのだけど。


『柚季ちゃんを見守らなくてはいけませんからね。あらゆる危険からその身を守り、色々な男からも守らなくては!』


聞いた私が馬鹿だった。こんな奴だってことは知っていたのに。


それでも昔はそばに居てくれることが嬉しかった。平凡な私は人見知りだったために友達もあまり多くなかった。

そんな私のそばにいつも居たのはこの男。なぜか私が一人で居るとどこからともなく現れて、私の手を優しく握るのだ。

それが不思議と心地よくて。妙に安心したのを覚えている。


『柚季ちゃん?』


私がカミサマを見ながらぼぉっとしていると不思議そうな顔をしたカミサマが私を見つめ返した。

しばし無言で見つめ合う私たち。

それにしてもムカつくくらい綺麗に整った顔をしている。神様――かどうかは未だに謎だが――は全員美形なのだろうか。


『そんなに見つめるなんて…柚季ちゃん、実は僕のこと――』

「バカでしょ」


真っ赤になって照れ始めたカミサマに向かってばっさり切り捨てれば、カミサマは教室の隅でいじけた。知らないフリをしたけど。

いじけるカミサマのことは見えないフリをしていたら、前の席にジャージを羽織った新城くんが座った。にわかにカミサマが元気になる。

いじけていたくせに立ち上がって新城君を睨む。その変わり身の早さに、私はため息を漏らした。

新城君は浮かない顔をする私を気にしてくれたのか、私の顔をじっと見ていた。ジャージを羽織ってる新城君は、制服だらけの教室の中で少しだけ浮いている。

そんなことを考えて、私は新城君がジャージを着ている理由を思い出した。


「鳥の糞…」

「もしかして気にしてる?」


そりゃあもちろん。原因を知ってるし。

黙然と頷く私に新城くんは苦笑した。「大丈夫だから」そう言って気にするな、って言うけどやっぱり気になった。

というか、隣で手をわきわきさせてるカミサマが気になる。なんだ、その怪しい動きは。

無表情に新城君を見下ろし、酷薄な笑みをその秀麗すぎる顔に浮かべる。


『こいつは柚季ちゃんの害悪になりかねません…』

「………」

『疑わしきは罰するべきですね』

「違うでしょ」

「え?」


あんまりな言葉に私が思わず突っ込んだら新城君が不思議そうな顔をする。しまった。新城君にはカミサマは見えないんだった。


「なんでもない。クリーニングに出すならお金、請求してね」


それだけ言って私は席を立ち上がる。新城君は何か言いたそうな顔をしてたけど気づかないフリをした。


『柚季ちゃん? どうかしましたか?』


いつも一緒に居るからだろうか。カミサマは私の変化に敏感だ。ウザイくらい私の顔を覗き込んで来るから、頬を思いっきり引っ張ってやる。


『…なにひゅるんれすか』

「別に。なんとなく」


理不尽です! ってカミサマが泣くけどシカトした。

元はといえば、この男が悪いのだ。

私に付きまとう誰にも見えないカミサマ。この男が私のそばに居るから私は変な目で見られることになる。

急に違う方を見たり、目はしょっちゅう泳いでて。一人言ばかり話す女の子なんかと誰が仲良くなりたいと思うんだろう。

……そんなことを考えてたら、なんだか悲しくなってしまった。今さらな話なのに。

そんな私を見てカミサマが首を傾げた。


『なんだか泣きそうな顔ですよ?』


カミサマの冷たい手が私の頬を撫でる。その顔は本当に心配してるって顔だった。間違っても新城君に見せていたような顔ではない。

変なの。カミサマが泣きそうな顔してる。情けない顔。目尻は下がりっぱなしだ。


「あんたの方が泣きそうよ」

『…じゃあ柚季ちゃんが慰めてください!』


顔を覗き込めば、カミサマが両手を広げて抱き付いてこようとする。私は思わずそれを避けた。

カミサマは勢いのまま壁に激突する。打ち付けた額を押さえながらカミサマはじろりと私を見た。


『…柚季ちゃん…』

「えっと…ごめん…」


それしか言えなかった。

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