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第11話<カミサマとの思い出>


子供のころ、この街に来るのが嫌だった。


入院している母の入院先がこの街の病院だった。だけど子供だから、という理由だけで私は病室には入れてもらえず、母には会えなかった。

それが不満で文句を言えば父にどこかで遊んでおいで、と病院を追い出される。今思えば、父も必死だったのだ。母の病状は悪くなる一方で、手のかかる子供の面倒なんか見てられなかったのだろう。

とにかく、私は不安と暇を持て余すように街へと出て――その神社を見つけたのだ。


『何をしているんだ?』


入りこんだ神社を探検し、見つけた大きな樹。それを馬鹿みたいに見上げていたら、声が上から降ってきた。びっくりして目を上げれば巨木の枝に座る男の人を見つけた。

その人は幹に腰かけ、つまらなそうに私を見下ろしている。深藍の着物を身に纏うその姿に、私は目を丸くした。

一方、向こうも私が見上げていることに気づき、驚いたように固まる。そうだろう。誰も彼の姿を見つけることなど出来なかったのだから。


『お前、私が見えるのか……?』

『お兄さん、誰?』


噛み合わない。だけど、そんなことはまったく気にならなかった。

私は一瞬で彼に魅せられて――格好の遊び相手を見つけたと思った。彼は枝から飛び降りると私の前に軽やかに降り立つ。

その所業を見ても彼が人間でないのは分かるが、その時はまったく気にならなかった。

恐るべし、子供の自分。

彼は好奇心に目を輝かせる私にたじろぎ、それでもその場から去ろうとはしなかった。初めて自分の存在に気付いた人間に、興味があったのだろう。


『人間、私が分かるのか』


尊大に言われた言葉。私はそれに反発心がむくむくと顔を起こして。目の前の妖しい男に人差し指を突き付けた。


『人間なんて呼ばないで! 私の名前は柚季よ』


小鼻を膨らませる私に、彼は目を丸くする。それから本当に楽しそうに笑った。声をあげて、大きな口を開けながら。


『そうか。柚季というのか』

『そうよ。あんたは?』


重ねて聞けばまた不思議そうな顔をして私を見下ろした。今まで一人だったのだから、名前を聞かれたことなど初めてなのだろう。彼は心底、不思議そうだった。

子供ながらの好奇心と怖いもの知らず発揮し、私はその人を無遠慮に見上げる。これが彼には意外と思うと同時に、気に入ったらしかった。

崇め奉られこそすれ、無邪気に名前を尋ねられたことなどなかったから。


『コハクだ』


できるだけ尊大に、でも少しはにかみながら言われた名前。私は新しくできた友達――当時は本当にそう思っていた――に嬉しくなった。


『そっ。じゃあ一緒にあそぼっ!!』


無邪気に手を握って駆け出した。彼――コハクは驚きながらも私と一緒に走りだす。


これがカミサマと私の出会い。


この街に来るたびにコハクの居る神社へと遊びに行った。最初は尊大だったコハクも人間らしさに染まり、少しずつ感情の機微が生まれて。

かくれんぼもしたっけ。コハクは隠れるのが上手くて――というか、実際に姿を消していた――探してもすぐには見つからず、私はよく心細さから泣いたりもした。

そうすると決まってコハクはすぐに姿を現し、泣く私をあやすのだ。


『ここに居る。そばに居る。ずっと一緒だ』


そう言って優しく頭を撫でながら。それでも波やまないと、コハクは決まって私に約束をした。

どんな時でもそばに居る、と。そう言って彼はいつも私に――。




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