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第1話<カミサマと私>


『寂しくないですよ。僕がずっと一緒に居ますからね』


思えばこれが、全ての始まり。




*  *  *




取り立てて目立つ容姿ではない。勉強ができるわけでも運動が得意なわけでもない。全てが普通。平凡が私の代名詞。


『おやおや、目の下に隈が。さてはまた遅くまで本を読んでましたね?』


玄関の開けた途端、眩しいばかりの笑顔が私の顔を直撃した。思わず目を背ければ男が私の顔を覗き込む。

淡色の着物と藍色の羽織を着ているこの男。顔はどんなイケメンも裸足で逃げ出すような美形で、髪は世の女性が泣いて羨むようなサラサラ黒髪。微笑む顔は鼻血出して倒れそうなほど極上。


――だけど私は知っている。


「また来たの」

『当然です。僕はたとえ火の中水の中、柚季ちゃんのためなら肥溜めの中だって会いに行きますよ』


重い。こいつの愛は意味不明な上に無駄に重いな。

こいつの相手はするだけ無駄だ。そう思った私は相手の脇をすり抜け、学校へと向かう。男も当然のように着いてきた。


「何度も言うけどさ、」

『なんですか?』

「ついてこないでくれる?」

『それは無理です』


満面の笑みで断られた。いつものことだけどムカつく。睨み付ければ男は頬をうっすら染めて照れた。……なぜ。

私はため息を溢しながら男を無視する。男はそんなあたしの顔を、可愛くて仕方がないという表情で見つめた。


『一緒に居ますよ。――守り神ですから』


そうなのだ。この男、私の守り神(自称)なのだ。胡散臭いことに。




そもそもの出会いは小学生の頃に遡る。何がどうなってそうなったのかは忘れたが、迷子になった私を家まで送り届けてくれたのが最初の出会いだ。

温かい手のひらが私の小さな手を包んでくれたことを覚えている。泣く私を慰めるように歌った歌声も。


『困ったら僕を呼んでください。僕は必ず君の元に行きますから』


そんなことを言って別れた翌日、彼は呼んでもいないのに、なぜかまた私の前に現れた。『君を守るためですよ』なんてもっともらしいことを言いながら。


以来、私はこのカミサマに、文字通り憑かれていた。




隣を上機嫌に歩くカミサマを胡散臭いものを見るように見上げる。


「あんたって本当はこの世に未練タラタラな幽霊なんじゃないの?」

『失礼な! この神々しい輝きが見えませんか?』


そう言ってクルリと道の真ん中で一回転した。回ったときに着物の袖が通行人にぶつかったが、誰も気にしない。

この摩訶不思議な現象に、私は内心で呻いた。

誰もこの男が見えない。声も聞こえない。――私以外の誰も。

彼は自分を神だと言う。誰にも見えないのは当たり前だと。ならなんで私には見えるのだろう?


「――櫻井、おはよ」


思考の海から私を引き戻したのは聞き慣れた明るい声だった。

視線を上を上げれば、同じクラスの新城君が柔らかい笑みを浮かべて立っていた。隣のカミサマから不穏な空気が漏れ出す。そっと様子を伺えば、思いっきり睨んでいた。


「…おはよ」

「どうかしたの? 立ち止まって」


あのね、神様(自称)と話してたの。

――なんて言ったらドン引き間違いなしだから、曖昧に笑ってごまかすことにしておいた。


「誰かを待ってるわけじゃないんだね? 一緒に行こうよ」

「えっと…」


新城君が善意で言っているのは分かる。だけど隣のカミサマが纏う雰囲気はどんどん険悪になっていく。


行くべきか、行かざるべきか。


悩む私をしばらく見ていた新城君は、自分の腕時計で時間を確認すると私の腕を取った。「遅刻するから」引っ張られるまま、私は彼と歩き出す。隣でカミサマがふふふ、と怪しい笑みを浮かべた。


『いい度胸ですね…。柚季ちゃんに勝手に触るなんて。万死に値します!』


突然叫ぶとカミサマは右人差し指を新城君に向ける。その瞬間、新城君の右肩に鳥の糞が落ちてきた。なんとも言えない空気が私たちの間に流れる。


『柚季ちゃんに近づいた罰です…!』


やりきった感のあるカミサマと黙り込む私たち。私はティッシュを差し出しながら、「ごめん…」と小さく謝った。


「なんで櫻井さんが謝るの」

「私の噂、知ってるんでしょ? だから…」


私の言葉に新城君は曖昧に笑った。やっぱり。知ってるんだね。

学校では私に関する噂が流れている。曰く、私に関ると地味に嫌な目に合うという。私は疫病神とやらに取り憑かれてるというのだ。

まぁ、あながち間違いでもないような気がするけど。


「噂とか気にすんなよ。学校に行けばジャージもあるし」

「え…」

「ほら、行こうぜ」


そんな風に言われたの、初めてだからどんな反応を返せばいいのか分からなかった。促されるまま、私は新城君と一緒に歩き出す。そんな私たちを見てカミサマが悔しそうに歯噛みをした。


『ちょっと! 気安く柚季ちゃんに触らないでください! あぁ! そんなに近づいて! 万死に値します!』


本当にやかましいカミサマだ。カミサマは刺しそうな目で新城君を睨みつけている。新城君には見えてないけど。

やっぱり本当に神様なのかな。その存在が疑わしいな、なんて思った。

現代を中心としたファンタジー小説です。連載はあまり長くならない予定。


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