第5話 猫という生き物
「そう警戒するな。私の名はダンケルティーガ。この世界の神である」
神様の声は、いつも頭に響いていたのと同じで、落ち着くいい声だった。
「「はあ〜〜〜っ?!」」
それなのに、お母さんとお父さんはありえないとばかりに頭を大きく振っている。
「信じられないのも無理はない。この姿ではな」
ふわふわの神様の身体は大きく、床に座っていても目線の高さがお父さんと同じくらいある。黒く艷やかな毛並みが綺麗で、金色の瞳も綺麗で、その姿は信じられないくらいかっこいい。【猫】という生き物の姿なんだって、教えてもらったことがある。
「猫がしゃべってる………」
「おっきな猫が偉そうにしてる………」
胸を張る神様とは対照的に、お母さんとお父さんは一歩後ずさった。
「おとーしゃんは、もふもふのかみしゃまきらい?」
「え?いや、嫌いではないけど。猫は神様ではないよ?」
お父さんはすんっと真顔になり、なにを当たり前のことを聞くの?という表情をした。
「というか、ルルアーナ。あの猫を知ってるの?」
「しってる!かみしゃま、ずっといる。もふもふで、やさしくて、かっこいい!」
「待って、ルルアーナ。ずっといるって言った?どこに隠れてたの?」
「かみしゃまは、かくれんぼがじょーず。ずっとかくれてた」
「「??」」
わたしの言葉に、お母さんとお父さんが不思議そうな顔をしている。
ああぁぁっ、幼児の口が恨めしい!
「私が説明しよう」
ふわふわの神様が、しっぽをゆらゆらと揺らしながら言った。
「先ほども名乗ったが、私はダンケルティーガ。ここセスト国では主神として崇められている神だ。これまで、妻のアルベルティーナと共にルルアーナを見守ってきた。ちなみに、この姿は地上で活動するための借りの姿だ。この度、黙っているわけにはいかぬ事情があり、こうして姿を現すことにした」
へえ。わたしが住んでいるのはセスト国という国なんだ。知らなかった。そういえば、プルフ村の外のことって知らないや。わたしって、知らないことばかりだね。
「確かに主神の名はダンケルティーガ様、その妻の名はアルベルティーナ様だが、貴方が神であるという証拠にはならない。そして、貴方が魔物である可能性も捨てきれない」
お父さんはわたしを腕に抱えたまま、ちらりと壁に立て掛けてある愛用の剣を見た。
「待ってアスラ。………ダンケルティーガ様、黙っているわけにはいかない事情とはなんでしょう?」
もふもふの神様への警戒心を隠そうともしないお父さんとは違い、お母さんは情報を集めようとしている。お母さんの方が冷静なのかも。
「ふむ。ルルアーナのポケットを探ってみるといい。そこに、ルルアーナが作ったエメラルドが入っている」
「はい」
ふわふわの神様に言われた通り、お母さんはわたしの服のポケットを探った。そして、出てきたエメラルドを見て目を丸くしている。
エメラルドはお母さんの目と同じ輝きを放っていて、やっぱり綺麗だと思う。大きさはそれほど大きくない。ツルリとした表面の、一センチくらいの塊だ。
「ルルアーナは、そのエメラルドを土から作った。おそらく、ほかの宝石も作れるだろう。それも、難なくな。素晴らしい能力だが、ルルアーナにとって危険でもある。両親であるおまえたちには知らせておく必要があると判断したのだ」
「そんな………いえ、ダンケルティーガ様の仰ることは本当なのでしょう。ここで嘘をつく理由がないもの」
「ということは、ルルアーナは祝福を受けていないのに二属性の使えて、宝石が作れるということなのか?そんなの………狙われるに決まってるじゃないか!」
「その通りだ。これからどうする?この地でひっそりと隠れて暮らすか?それとも、ルルアーナに自らを守る術を教え、鍛えるか?………使えるものは、すべて使うべきだと思うがな」
え、どういうこと?教え、鍛えるって、なにをするの?使うってなんのこと?
お母さんとお父さんは顔を見合わせて、なにかを確認しているみたい。もしかして、もしかして、お母さんたちも念話が使えるの?
「………今夜一晩、考える時間をください」
………違った。
「いいだろう。私は外に出ている。好きに話すがいい」
「ありがとうございます」
前足を使い器用に扉を開けて出ていくふわふわの神様を、お母さんとお父さんは頭を下げて見送った。
それからわたしは身体を洗ってもらい、お昼ごはんを食べてお昼寝をした。この小さな身体は、まだまだ体力がない。
お母さんたちには内緒だけど、枕元にはさらさらの神様が丸くなっている。




