第46話 ルナール城到着
あれから、シモン様とは一度も顔を会わせることなくダフネ子爵様の領主邸を出発することになった。人見知りだからしかたないよね。
ダフネの町から一番近くの街まではダフネ子爵様が手配してくれた馬車を使い、街で馬車と馬を購入してグリーシャ辺境伯領へ向かうことになった。馬車の御者はお父さんが務め、馬車の護衛はオルクスひいおじい様とふたりの騎士が務めてくれることになったよ。
オルクスひいおじい様たちが乗るのは、グリーシャ辺境伯領からダフネの町まで駆けてきた三頭の軍馬。
軍馬は、普通の馬よりも身体が大きくて気が強かった。戦場を駆け抜けることもあるから、軍馬は気が強くないと務まらないんだって。
ちなみに、人同士の戦争はここ百年ほど起きていないけれど、魔物との戦いは起きているって聞いたよ。
魔物は、魔素の濃い自然の中に生まれる。森や、山や、川に海にも魔物は生まれる。逆に、人が生活している町や村には生まれない。それというのも、人が生活している場所では魔素が薄いからだそうだよ。人が生活する上で、魔素を消費しているからだろう。とオルクスひいおじい様が教えてくれた。
街でオルクスひいおじい様が買ってくれた馬車にはロッシェ・オルト騎士が持っていたラングレー騎士団の旗をかけたので、オルクスひいおじい様たちが守ってくれていたこともあって、盗賊などに襲われることはなく。たまに現れる魔物は、空から周囲を警戒しているアルが発見次第ティガに伝え、ティガが魔法で散らしていた。
魔物は獣に近くて、基本的に食べるという欲求を満たすために生き物を襲う。そして、本能的に自分より強い者を恐れ、基本的には近づいてくることはない。だって、強い相手に勝てる確率は低いし、負けたら自分が殺されちゃうもんね。
そんな魔物が、人数は少ないとはいえ、強い騎士に守られたわたしたちを襲ってくるときは、たいていが知能が低いゴブリンだった。
次に、自分より強い魔物に追われた魔物が、間違って姿を現す場合かな。
そんな魔物たちを殺すのは簡単だけど、魔石をそのままにしておくと別の魔物を呼び寄せてしまうから。魔物を殺したら、馬車を停めて魔石を取り出したり、魔物の死体の処理をしないといけないでしょう?
その手間を省くために、魔物は殺さず散らしているんだよ。
そうやって、わたしたちは一度も戦闘をすることなく無事にグリーシャ辺境伯領のルナール城に着いた。
旅の途中でファルース国の王都にも立ち寄ったけれど、ルナール城はこれまで見た中で一番美しい城だった。長い冬を城の中で過ごすことになるため、そして多くの光を浴びるようにするために、ルナール城の沢山の窓は貴重なガラスが嵌められていた。だからなのか、城全体がキラキラと光っているように見えたよ。
ルナール城がある領都に近づいたとき、なるべく目立たないように、馬車にかけられていたラングレー騎士団の旗が片付けられて、領民に顔を知られたオルクスひいおじい様がティガと交代で馬車に乗ることになった。オルクスひいおじい様は目立つもんね。
ティガがゴネたから、わたしはティガとアルと一緒に馬に乗ったよ。
馬はすごいね!大きくて、筋肉の塊で、すごく逞しいの。馬上は見える景色が違って楽しかったよ。
そして、オルクスひいおじい様の帰城を知らせるために、領都が近づいたところで騎士のオルト卿が一足先にルナール城へ馬を走らせて行った。
だからか、わたしたちがルナール城の城門を潜ったとき、大勢の騎士が整列して出迎えてくれた。ルナール城に入ると、今度は大勢の使用人が出迎えてくれたよ。
騎士や使用人たちの、お母さんとわたしを見る目は温かく優しかったけれど、お父さんは明らかに歓迎されていないようだった。睨んでいる人も少なくなかったよ。
使用人の先頭にくっちりとスーツを着込んだ年配の男性がいた。彼は執事長のセバスと名乗り、次いで髪をきっちりと乱れなくまとめた女性が家政婦長のサラと名乗った。
「セバス、クラウスはどうしている?」
「旦那様は、執務中にございます。お呼びいたしますか」
「いや、よい。あとで執務室へ行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
クラウスというのは、現ラングレー家当主の叔父様のことだよ。オルクスひいおじい様の息子で、お母さんのお父さん。
「サラは、手紙で伝えた通りミシェルたちの世話を頼む。まずは風呂と着替えだな」
「お任せください、大旦那様」
サラはオルクスひいおじい様に返事をすると、わたしたちに向き直った。
「お部屋のご用意ができております。こちらへどうぞ」
サラは、わたしを自分の腕に座らせているティガに目を向けたものの、なにも言わずに歩き出した。言いたいことがあるなら、言えばいいのに。
サラに案内されたのは、ルナール城の離れにある一軒の家だった。緑色の屋根に白い壁の家で、プルフ村で暮らしていた家よりずっと大きい。
家の中にはお揃いの制服を着た女性が四人いて、わたしたちの世話をするメイドだと名乗った。
ええと………世話係なんて必要ないよ?
戸惑うわたしたちには構わず、メイドたちはわたしたちをそれぞれの部屋へ案内してくれた。
いま、わたしとお母さんは、わたしに用意された子供部屋にいるの。家具は使われた跡があるけれど、子供向けの小さな家具で丁寧に磨かれていて可愛らしい。ラングレー家の誰かが子供のときに使っていた家具なのかもしれないね。




