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第45話 シモン・ダフネ子爵令息

 応接室でいただいたお茶とお菓子は美味しかった。お茶もお菓子も初めて飲んだり食べたりしたから、心からびっくりしたよ。さすが貴族様。あんなに美味しい物を、普段から口にしているんだね。


 そのお茶の席で紹介されたのがダフネの町の領主であり、この邸の主であるリロイ・ダフネ子爵様。


 わたしたちが到着するまで邸に泊まっていたオルクスひいおじい様は、当然ダフネ子爵様と面識があったけれど。わたしが魔力枯渇で気を失っていた間に、お母さんとお父さん、そしてティガとアルもダフネ子爵様と挨拶をすませていたらしい。


 ダフネ子爵様は柔和(にゅうわ)な雰囲気の男性だった。細身だけれど、国境があるこのダフネの地を守る一族ということで身体にぜい肉はなく引き締まっていた。剣の稽古は欠かさないのだと言っていたよ。


 そんなダフネ子爵様には、一人息子のシモン様がいる。ダフネ子爵様に似て柔らかい雰囲気の、五歳のお坊ちゃまだ。五歳ということは、神殿で祝福を受けて生活魔法を使えるようになっているはず。


 ということは、祝福がどんなものか話を聞けるんじゃない?


 わたしが五歳になったときのために、祝福の話を聞きたい!生活魔法のことを聞きたい!と張り切ったけれど、シモン様はとても人見知りだった。


 シモン様に挨拶すると、顔を真っ赤にしてシモン様を連れてきてくれた乳母のスカートに隠れてしまった。


「しもん、おはなちしよ?」


 首をコテンと傾けると、シモン様はさらに顔を赤くして俯いてしまった。呼び捨てがよくなかった?


 う〜ん。どうしたらお話してくれるかな。


「あんね。りゅりゅあーな、しゅくふくしりたいの」


 どうだ!今までで一番の長文を話せたよ?これならいいでしょう。ふっふふー。


「………」


 あれ?無反応だね?


 しかたないので、シモン様の表情を見るためにその場でしゃがみ込み、下からシモン様を見上げた。


「………!」


 わたしと目が合ったシモン様はバッと顔を上げて口をパクパクしながら後退り、「失礼します!」と叫んで応接室から出て行ってしまった。


 シモン様の乳母も、すぐにシモン様の後を追って応接室を出て行った。


 話を聞きたかったのになぁ………。


「おとーしゃん、いっていい?」


「………ルルアーナ、やめてあげてくれ。これ以上は可哀想すぎる」


 お父さんは苦笑していて、「ルルアーナにはまだわからないだろうなぁ」と呟いた。


 わたしはなにをわかっていなくて、どんな可哀想なことをしたんだろう?


「シモンは、ずいぶんルルアーナ譲のことを気に入ったようだね」


 ダフネ子爵様は、シモン様が出て行った扉を見て楽しそうに笑っている。そして、わたしに手を貸して立たせてくれた。


 わたしには、ダフネ子爵様の言っていることもよくわからない。


 シモン様は、父親に呼ばれて嬉しそうに応接室にやって来たのに。わたしを一目見るなり赤い顔をして口をぎゅっと閉めてしまった。それからさっきの状態になったのだけど、わたしには何がいけなかったのかわからない………。


「ルルアーナ譲、シモンと友達になってくれるかな?」


 え?ダフネ子爵様、いきなりなにを言ってるの?わたしはいいけど、シモン様は絶対嫌がると思うよ?


「親の贔屓目(ひいきめ)かもしれないが、シモンは優秀な子でね。やればなんでもできる子なんだ。そのせいか、いつもつまらなそうな顔をしていた。それが、あんな顔をするなんて………ルルアーナ譲を気に入ったんだね。父として嬉しいよ」


 ええと、息子自慢?


「シモンには手紙を書かせるから、返事を出してくれるかな。ルルアーナ譲はまだ字は書けないだろうから、絵を描いてくれてばいいよ。お願いできる?」


 う〜ん。絵を描くくらいなら、いいかな。


 わたしはダフネ子爵様を見上げて、大きく頷いた。


「そうか!ルルアーナ譲、ありがとう」


 そんなわけで、わたしの保護者たちが誰も反対しなかったので、人見知りなシモンと友達になることになった。


 そして、大人たちがそれぞれの子供の話で盛り上がっているうちに夕食の時間になり、わたしたちはダフネ子爵様の案内で食堂へ向かった。


 広い食堂には長いテーブルが置かれていて、シモンが先に来て席についていた。


「お父様、お待ちして………はっ?!」


 ダフネ子爵様に挨拶しようとして、ティガの腕に座っていたわたしと目が合ったシモン様は、みるみる顔が赤くなっていく。


 なんだろう?シモン様は熱があるのかな?


 シモン様は、赤くなった顔を両手で隠しながら食堂を駆け足で出て行ってしまった。


 残された大人たちは、お互いに目配せして笑い合った。








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