第44話 鑑定魔法をかけられる、ということ
「ルルアーナ、お母さんのせいで傷ついたでしょう?ごめんなさいね。心から反省しているわ。許してくれる?」
泣き腫らして赤くなった目で、お母さんはわたしを正面から見つめてきた。その姿が、すごく可愛らしい。
………お母さんは、まだ若いもんね。二十代前半かな?元貴族令嬢だったなら、田舎での平民の暮らしは過酷だったんじゃないのかな。なんでも自分でやらないといけないの、お嬢様だったお母さんは苦労したよね?それなのに、プルフ村にいた頃は毎日ニコニコしてて、グチなんて聞いたことがない。
わたしが知らなかっただけで、お父さんの前では泣いていたこともあったのかもしれないのにね。
お母さんの肩を抱くお父さんは、優しい目をしてる。
「あい。おかーしゃん、いーこ」
「ありがとう、ルルアーナ!」
そう言って、また泣きそうになるお母さん。
「ははは。ミーア、また泣きそうになってるよ」
お父さんはお母さんを自分の胸に抱き寄せて、お母さんの背中を優しく擦った。その動きに、お母さんへの愛情を感じる。
心がホッコリと温かくなった。
コンコンッ
扉をノックする音が響いて、ライラが若草色のポーチの中へスルリと入った。
「どうぞ」
お父さんが返事をすると、ティガと、そのティガの肩に乗ったアルが部屋に入って来た。その後ろには、オルクスひいおじい様もいる。
「おお、ルルアーナ!もう起きていいのか?」
「あい。だいじょぶ」
オルクスひいおじい様は小走りでベッドに駆け寄ると、わたしの手を取った。探られているような、落ち着かない気分がする。
「ふむ。ティガの言う通り、魔力が回復しているようだ。これなら、もう心配はいらないな」
「あい………」
落ち着かない気分はすぐになくなったけれど、心がザワザワする。
「ん?どうした。気分が悪いのか?」
「オルクスが鑑定など使うからだろう。ルルアーナ。今のが、鑑定をかけられた感じだ。覚えておくといい」
そうか。今のが………身体の内側を覗き見されているかのような、不快な感じだった。
「そ、そうか。ルルアーナ、つい鑑定をかけてしまった。すまない」
わたしの手を離したオルクスひいおじい様が、ガバっと頭を下げた。
こんな子供に頭を下げられるなんて、オルクスひいおじい様は立派な人だね。
「それにしても、ミーアは酷い顔をしているな。顔を洗ってくるといい」
「はい、ティガ様。失礼します」
お母さんはしっかりした足取りで立ち上がると、ティガに一礼して部屋を出て行った。
「ティガ様、大旦那様、こちらへどうぞ」
「「ああ」」
お父さんが立ち上がり、空いた椅子にティガとオルクスひいおじい様が座った。
「ティガがすぐに回復すると言っていたが、こうも早く目が覚めるとはな。ルルアーナ、身体におかしいところがあればすぐに言っておくれ。無理をしないようにな」
「あい。ひいじーじ」
「?!」
あれ?オルクスひいおじい様のこの反応はなに?わたし、おかしなこと言ったかな。
不思議に思っていると、オルクスひいおじい様が吠えた。
「うおおおっ。ルルアーナが、ルルアーナが、儂のことを【ひいじーじ】と呼んだぞ!」
え、だって、わたしの舌っ足らずな口じゃ「オルクスひいおじい様」なんて言えないからね。
オルクスひいおじい様は興奮していて、握りこぶしを作って「さすが儂の可愛いひ孫だ!」なんて叫んでいる。………恥ずかしい。
「ところで、ルルアーナ。ダイヤをオルクスに渡すのではなかったか?」
そうだった!
わたしは、アイテムボックスにさっきしまった革袋を引っ張り出した。オルクスひいおじい様が身悶えしている間に、革袋からピンクダイヤだけ出してアイテムボックスにしまう。
この大きさのピンクダイヤは王様でも持っていない品、ということだから、アイテムボックスに封印しておいた方がいいと思う。
「ひいじーじ、こえ、あげりゅ」
「ん?なんだ?」
オルクスひいおじい様はわたしから受け取り、ワクワクした様子で革袋の中を覗き込んだ。そして、困惑したような顔でわたしを見た。
「あんね、ひいじーじにあげりゅの。おむかえ、ありがとー」
ダフネの町まで来るのは大変だっただろうし、これからグリーシャ辺境伯領まで戻るのに旅費がかかるでしょ?いらなかったら売って旅費に変えていいよ!
という思いを込めて、オルクスひいおじい様の目をじっと見つめた。
「………ルルアーナ、わかったよ」
やった。伝わったかな?
「ルルアーナからの初めてのプレゼント、大事にとっておくよ!」
あれれ?思ったのと違うな?
オルクスひいおじい様は満面の笑みを浮かべて、革袋をぎゅっと胸元に抱き締めた。
まあ、喜んでるみたいだからいっか。
「さて、ルルアーナ。お腹が空いているだろう。応接室でお茶とお菓子にしよう」
「あい。いく!」
お茶とお菓子は逃せない!
シュパッと手を上げると、ティガが布団を捲ってわたしを抱き上げ、そっと自分の左腕に座らせてくれた。
「さっきメイドにお茶の用意を頼んでおいたから、すぐにお茶にできるぞ」
オルクスひいおじい様がそう言って、歩き出したティガの隣に並んだ。お父さんは、自然な動きでティガたちの後ろに続いた。




