第41話 ピンクダイヤ
いつもの、土と小石だけを使った変換魔法とは違い、炭に変化が訪れた。土と小石に触れていた炭がポロポロと崩れた。どうしてかな?
残っていた炭の塊を持ち上げると、そこにはキラキラと輝く無色透明な粒がいくつも転がっていた。ひとつの大きさは一センチもない。でも、綺麗。これ、なにかに使えないかな?
「ダイヤだと?!それも、こんなに大量に………小石は………残っているな。ということは、つまり、土と炭でダイヤを作ったのか?なんてことだ………」
オルクスひいおじい様は、この光の粒を鑑定したんだね〜。そうか、ダイヤか!
ライラ、食べる?
わたしがワクワクしながらライラに聞くと、
『知ってる?ダイヤは、他の宝石より硬いのよ。消化に時間がかかるの」
クワッ!と目を見開いた彼女に諭された。
じゃあ、いらないの?
ライラも喜んでくれると思ったんだけど、無理強いはよくない。じゃあ、このダイヤはオルクスひいおじい様にあげ………。
『だめ!全部あたしの!』
ふふふ。ライラったら、そんなに沢山食べられないでしょ?ライラには二個あげるね。あとは、迎えに来てくれたオルクスひいおじい様にあげようっと。
魔力を込めて魔宝石にしたダイヤをライラの前に二個置くと、ライラは一個を飲み込み、もう一個は大事そうに持って若草色のポーチへ潜り込んだ。
そっか。一気に食べないで、あとで食べるんだね。ライラは偉いね。
顔を上げると、大人たちがわたしを見ていた。
え、なに?
ティガは顎に手を添えて考える素振りをしていて、そんな姿もかっこいい。
お母さんは目がキラキラしていて、お父さんは嬉しそうな顔。オルクスひいおじい様は、驚き悩むような顔をしている。
「ルルアーナ。魔力は残っているか?苦しくはないか?」
うん、大丈夫。魔力はちっとも減ってる気がしないよ。
「そうか。この程度の変換に、魔力はほぼ消費しないのか。身体への負担が少ないのは良いことだ。では、ルルアーナ。炭が手に入るうちに、もう少しダイヤを作ってはどうだ?それと、色付きのダイヤは作れるか試してみるといい」
なんと!この綺麗なダイヤに、色をつけるですって?!………あ、お嬢様口調になっちゃった。恥ずかしい!
大人たちがなにか話し合い?を始めたけれど、とにかく恥ずかしかったわたしは、俯いて、目の前のことに集中した。
まず、土の上に乗っている邪魔物をよけないとね。崩れた炭は、ボロボロだからこのまま残すとして。邪魔な小石とダイヤを取り除く。絨毯の上にハンカチを敷き、その上に小石とダイヤを並べていった。
そして、土の上にさっき使った炭の残りを置く。
小粒のダイヤはさっき作ったから、今度は違うものを作りたい。ティガが言っていた色付きダイヤを作ろう。それで、お母さんにプレゼントするの。
でも、ダイヤが何色なのかわからないな?他の宝石は勝手に色がつくから、色がつくイメージはしたことがないの。
「ルルアーナ。色付きダイヤは、ピンクダイヤ、ブルーダイヤ、イエローダイヤがあるぞ」
ティガ、教えてくれてありがとう!
わたしは、顔を上げずに心の中でお礼を言った。
よし。まずは、ピンクダイヤを作ろう。そう決めて、わたしは目を閉じた。頭の中で、ピンクダイヤの姿を思い描く。さっきのダイヤよりも大きくて、ピンク色の花のような可愛らしい色をしている姿を。イメージが固まったところで、魔力身体からズルリと抜けた。
あれ?いままでと違うぞ?
目を開けると、頭がクラクラした。身体も、なんだかフワフワする。すぐに横になりたい。でも、寝る前にダイヤがどうなったか確認しなくちゃ。
土の上に置いた炭は全部が崩れていて、一見すると、魔法が失敗したように見える。でも、なにかあるはず!崩れた炭に手を突っ込むと、なにか硬い物が手に触れた。両手で掴んで持ち上げると、わたしの握りこぶしくらいの大きさの、ピンク色にキラキラ輝くダイヤが現れた。
「「「はあああ?!」」」
よくわからない、驚きの声が上がった。
「ルルアーナ。成功おめでとう」
「あい」
ティガだけが褒めてくれて、やってよかったという気持ちになった。ホッコリと胸が温かくなる。いい気持ち。
「おかーしゃん、あげりゅ」
両手で持ったピンクダイヤを持ち上げて、お母さんが受け取りやすいようにした。
ところが、お母さんは青い顔をして狼狽えている。
「ごめんね、ルルアーナ。ええと、なんて言ったらいいかしら………あのね、宝石はとても貴重な物で、豊裕福な商人か貴族しか持てない物なのよ。その中でもダイヤは人気があって、手に入りにくいのよ。そう、砂粒みたいな大きさでもね」
なに、どういうこと?なんでお母さんは喜んでくれないの?
「そして、色がついたダイヤは、滅多に見つからない貴重品で………こんな大きなピンクダイヤは、王様だって持っていないのよ」
お父さんとオルクスひいおじい様を見ると、ふたりはウンウンと頭を上下に振っていた。
ピンクダイヤを持ち上げていた腕は、するすると下に下がった。両手から力が抜けて、ピンクダイヤは絨毯の上に転がり落ちた。
悲しい。頑張って作ったピンクダイヤは、いらなかったの?わたし、よけいなことをしたの?
頬を、冷たい物が流れていく。
心臓が、きゅっと冷たくなったような気がする。
そのとき、ふわりとなにかで包まれた。顔を上げると、ティガと目が合う。そうか。ティガが、自分のマントでわたしを包んでくれたんだね………。
ふっと、足から力が抜ける。ふわりと身体が持ち上げられて、ティガに抱き締められた。
と、そこでわたしの意識は途切れた………。




