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第40話 ルルアーナの魔法

「オルクス大旦那様。ルルアーナ様を大切に思われるなら、なおさら邸の中に入るべきです。私でも、一目見ただけでルルアーナお嬢様が特別なことはわかります。あの方に関する話を、敷地内とは言え、何者でも見聞きできる外でするのはルルアーナお嬢様を(ないがし)ろにしていると言わざるを得ません」


「………」


 オルクスひいおじい様はラグナ騎士団長を睨み、次に視線をわたしに向けてきたので、ニコリと笑ってみせた。


「!!………わかった。邸に入ろう!」


 そう言うと、オルクスひいおじい様は先頭に立って歩き出した。


「皆様、こちらへどうぞ」


 ラグナ騎士団長に促されて、お母さんとお父さんとティガがあとに続いた。最後に、さっき道案内をしてくれた騎士が続く。


 邸に入ると、ビシッとスーツを着込んだ年配の男性に出迎えられた。


「皆様、ようこそおいでくださいました。私は、このダフネの町を治める領主の執事をしておりますマーロンと申します。主はただいま執務中ですので、私が応接室までご案内致します。どうぞ、こちらへ」


 歩き出したマーロンに続いてオルクスひいおじい様も歩き出したので、わたしたちもあとに続いた。


 通された部屋に入り、荷物を部屋の隅に置くと、オルクスひいおじい様に促されて、ふたりの騎士以外の全員がソファに座った。騎士は部屋の入り口近くの壁際に下がった。


 応接室の中央にはゆったりとしたソファとテーブルがあり、床には絨毯が敷かれていた。貴族のお客様を持て成すためなのか、室内の調度品は質も品もいいものが置かれ、暖炉には炭が置かれていた。暖炉を使う季節でもなく、置かれているのが薪でもないのが不思議。


「さあ、もういいだろう。ルルアーナを抱かせておくれ」


 オルクスひいおじい様の声で、部屋の観察から意識を戻された。


 オルクスひいおじい様を見ると、わたしに向かって両手を伸ばしていた。


「ルルアーナ、どうする。私は、このままで構わないが」


 う〜ん。そうだな。辺境の地からわざわざ迎えに来てくれたオルクスひいおじい様なら、抱っこくらいしてもらっていいけど。これからする話によっては、びっくりついでに落とされるかもしれない。オルクスひいおじい様のところへ行くのは、話のあとがいいと思う。


「わかった。そのようにしよう」


「なんだ。早くルルアーナを渡しなさい」


「ルルアーナを渡すのは、話のあとだ」


「だが………」


「オルクス、まずは騎士を部屋の外へ。そうすれば、面白い話をしてやろう」


「いいだろう。お前たち、外で待っていなさい」


 騎士たちは応接室に危険はないと思ったのか、素直に部屋を出ていった。


 その直後、魔法が発動する気配がした。


 ティガの顔を見上げると、「防音の魔法を施した」と言われた。


「なぜそんなことをする?」


 オルクスひいおじい様が、不思議そうな顔をしている。


 えーと。なにから話そうかな。ティガとアルの正体を明かすのは最後だよね。それなら、まず、変換魔法のことから話して、ライラのことを話そうかな。


 ティガ、下に下ろしてくれる?


「わかった」


「ん?ティガ。その、わかった、は誰に対しての言葉だ?」


 そっか。ティガが念話を使えることを話すのが先か。


「あんね、てぃがはここりょでおはなちのできりゅの」


「おお、ルルアーナはおしゃべりが上手だな」


 う〜む。幼児の口では、言いたいことがうまく伝わらない。


 ティガ、念話でオルクスひいおじい様と話してくれる?


「わかった」


「だから………それは?!なんだこれは!頭の中にティガの声が響いてくるぞ!」


 よほどびっくりしたのか、オルクスひいおじい様はソファから勢いよく立ち上がった。両手で耳を塞いだり、ティガから目を逸らしたりしているけど、強制的に頭の中に響くティガの声で説明を受けているよう。少しして納得したのか、大きく頷いた。


「いつも念話でルルアーナと会話しているとは、羨ましい!儂も念話を覚えてやるぞ!」


 うん。どうやって念話の使い方を覚えるのか知らないけど、使えたら便利だよね。


 そのことを考えるのはあとにして、次は変換魔法を見てもらおう。


「あんね、りゅりゅあーなみてて」


 声を上げてオルクスひいおじい様の注意を引くと、毛足の長い絨毯の上にペタンと座った。


 黄色のポーチに手を入れ、土が入った巾着袋と、わたしの手にちょうどいい小石を取り出した。


「なんだ?ルルアーナ、ままごと遊びをするのか?」


 わたしは巾着袋の口を広げて、中の土がよく見えるようにした。土の上に小石を乗せると変換魔法を使った。小石は土から必要な成分を奪い、四つが宝石へと変わった。


「はあ?!ルルアーナ、いまのはなんだ?魔法か?」


「あい」


 できたエメラルドをオルクスひいおじい様に手渡すと、オルクスひいおじい様はエメラルドに鑑定魔法を放った。


 いいなぁ。わたしも鑑定魔法を使えるようになりたいよ。


「これは………本物のエメラルドだ。今、その土も鑑定してみたが、ただの土だった。ミシェル、これはどういうことだ?石が宝石に変わったぞ」


「おじい様。今のは、ルルアーナの変換魔法ですよ。ルルアーナは、土と石から宝石を作れるのです」


「なんということだ。この力は、王家すら欲しがるぞ」


「ええ。ですから、ルルアーナを守っていただこうとおじい様に連絡をしたのです。それから………」


「まだあるのか?」


「ええ。ルルアーナ、ライラを出してくれる?」


「あい」


 若草色のポーチの蓋を開けると、ライラがひょっこり顔を出した。ライラはわたしの腕を伝い、わたしの肩へと移動した。そして部屋の中をキョロキョロと見回し、暖炉を見て目を輝かせた。


「ちょっと待て。それはトカゲ………ではあるまい。まさか、ドラゴンか?!」


「あい」


 驚きの声を上げるオルクスひいおじい様に返事をして、ライラが好きなサファイアを、ライラの口元に持っていった。


 ライラはどの宝石も食べるけど、サファイアを食べてるときが一番嬉しそうなんだよ。


 バリバリ


 ライラがサファイアを噛み砕く音が室内に響く。


『モグモグ………ゴクンッ。ルルアーナ、あれ見て!あの黒いで、新しいご飯が作れる気がする!作って!』


 ライラが小さな前足で必死に指したのは、暖炉の中に積まれた黒い炭。


 ライラは背中のちっちゃな翼を広げ、ふわりとわたしの肩から飛び上がった。そのまま暖炉へ向かって飛んでいく姿を、わたしたちはじっと見つめた。


 ライラは暖炉に着くと一番小さな炭を掴み………それでも、ライラより大きいけど………ヨロヨロと飛んでわたしのところに戻って来た。炭をわたしの手の上に落すと、興奮した様子でわたしを見上げた。 


『早くやって』


「あい」


 わたしは床にあった土入り巾着袋をアイテムボックスにしまい、新しい土入り巾着袋を出した。そして土の上に小石を置くと、ライラが持って来た炭を小石の上に置いて変換魔法を使った。


 いつもの、土と小石だけを使った変換魔法とは違い、炭に変化が訪れた。土と小石に触れていた炭がポロポロと崩れた。どうしてかな?








 

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