第4話 ダンケルティーガ
わたしが初めて魔法使ってからひと月が経った。わたしの体力、筋力量は前より上がり、よちよち歩きからスタスタと軽い足取りで動けるようになった。
と言うのも、もちろん身体作りに励んだからでもあるけど、身体強化魔法を使えるようになったから。
幼児体型のせいで頭が重くてときどきふらついてしまうのは、まあ、仕方ないよね。まだ二歳だもん。
いまもふらついてしまい、お父さんが手を伸ばして身体を支えてくれた。
「おとーしゃん、ありがとー」
にこりと笑うとお父さんが手を離してくれたので、洗濯物でいっぱいのかごをを持って外へ行くお母さんの後を追いかけた。
開けっ放しの扉から外へ出ると、日当たりのいい場所に木とロープを組み合わせて作られた物干し場所へ向かった。そして、物干し場所の周囲を歩き始めた。
平らな家の中と違って、外はデコボコしているからいい運動になるんだよ。石につまずいては転け、地面のへこみに足を取られては転け、ときにはなにもない場所で転けたりするので、お母さんが洗濯物を干し終える頃には、わたしはすっかり土と草で汚れている。
そんなふうに過ごしていても、お母さんはわたしを叱らない。むしろ、頑張ったわね、と褒めてくれる。
だから、わたしは笑顔で頑張れる。
運動のあとは、お父さんと一緒に畑仕事をやる。
うちは農家ではないけれど、家と一緒に借りた土地があるので、家庭菜園をやっているの。
お父さんが力強くクワを振り下ろし土を耕す一方で、わたしはすでに野菜の芽が出た畑に行き、畑にぺたんと座って土に両手をつける。
そしてイメージ!
芽の上に小雨が降り、畑がしっとりと濡れる様子をイメージした。雨は多すぎてはいけない。大雨は、せっかく生えた芽をだめにしてしまうから。
やがて、シトシトと水が降り出し畑を濡らした。成功だ。
顔を上げると、お父さんが驚いた顔をしていた。
「ルルアーナ。畑に水やりをしてくれたのかい?」
「うん。おとーしゃんと同じ!」
「そうか。俺がやっているのを見ていて、真似をしたのか。ルルアーナは風属性だけじゃなくて、水属性の魔法も使えるんだな。すごいぞ」
えへへ、と笑って、ひと仕事終えたわたしは畑の端で遊ぶことにした。
土を手で掘り穴を作り、そこに魔法で水を入れて木の棒でグリグリと混ぜる。そこでふと、お父さんがお母さんの誕生日が近いと話していたことを思い出した。
わずか二歳の娘に、妻の誕生日プレゼントの相談をしてきたのはどうかと思うけど、お父さんの力になりたい。
泥を混ぜていると、木の棒が小石に当たった。そうして思ってしまった。
………この石がお母さんの目の色みたいな緑だったらいいのに。
『ルルアーナだめだ!』
神様の止める声が聞こえたけど、もう遅い。泥の中の小石は、光り輝く緑の宝石に変わっていた。
『ルルアーナ、いまのは変換魔法というものだ。土の中の成分を使い、石をエメラルドという宝石へ作り変えたんだ』
そう言われて、冷や汗が出てきた。
土から宝石を作れたら便利だよね。でも、それをしてお金を稼ぐことがまずいのはわたしでもわかる。宝石の出どころを探られるし、わたしが作れることを知られたら、監禁されて死ぬまで宝石作りをさせられる未来だってありうるのだ。
とりあえず、できたエメラルドはひとつだけだ。わたしは泥の中からエメラルドをつまむと、ポケットに突っ込んだ。
でも、エメラルドは隠しようがない。お母さんが服を洗濯するとき、エメラルドを見つけてしまうよ。
わたしは感情が高ぶって、ポロポロ泣き出してしまった。どうしたらいいのかわからないよ。
『こうなったら、私がエメラルドを作ったことにしよう』
え?それはだめだよ。お母さんとお父さんには嘘をつきたくないの。
『わかった。それでは、真実を話すとしよう。ルルアーナ、私がアスラを連れて家に帰るんだ。両親が揃ったところで、私から話す』
でも、神様の姿はお母さんたちには見えないんじゃ??
『大丈夫。私が説明するから安心しなさい』
よくわからないけど、神様の言う通りにすることにした。だって、ほかにどうしようもできないから。
「おとーしゃん!」
お父さんのところへ駆け寄ろうとすると、わたしの声に振り向いたお父さんがぎょっとして、カマを置いて駆け寄って来てくれた。
「ルルアーナどうした?!怪我したのか?あぁ、泥だらけでよくわからないな。家に帰って洗ってやろう」
お父さんが家に駆け込むと、お母さんは泥だらけのわたしに苦笑した後、わたしが泣いていることに気づいてハンカチで涙を拭ってくれた。
「アスラ、なにがあったの?」
「それが、よくわからないんだ。ルルアーナ、話せるかい?」
「んーん。かみしゃまがお話しする」
「「えっ?」」
ふたりが同時に驚いた顔をした直後、一緒に付いてきていたふわふわの神様が室内に姿を現した。
神様がしっぽを振って玄関の扉を閉めると、両親は飛び上がるほど驚いて、それからわたしを庇うようにお母さんが前に出た。
「そう警戒するな。私の名はダンケルティーガ。この世界の神である」




