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第38話 男たちの戦い

 困ったな。特にオルクスひいおじい様を恐いとは思わないけれど、ふたりきりになるにはまだ早いと思う。誘いを断りたい。


 ティガ、どうしよう?


 ティガを見上げると、砦で一度脱いだフードを、もう一度脱いでいた。黒髪がサラリとフードからこぼれ落ちる。金色の瞳と目が合い、ティガは目だけで微笑んだ。


 これは、心配いらないってこと?


「久しぶりだな、ラングレーのオルクスよ。覚えているか?私はアンデルタ所属Sランク冒険者のティガだ」


 ふんふん。ちょっぴり偉そうな態度だね。まあ、ティガは神様だから、実際、偉いのだけど。


「はっ。アンデルタのティガだと?!そんな、まさか………ティガが活躍していたのは、もう四十年以上も前のことだぞ。あの頃と姿が変わっていないとは、どういうことだ」


 オルクスひいおじい様は、愕然(がくぜん)とした表情になった。そして、独り言なのか、ブツブツと呟く。最後は、声のボリュームが大きかったので、ティガに問いかけたんだと思う。


「ふん。オルクスも耄碌(もうろく)したか」


 うわあ。そんなバカにした態度はよくないよ?


「なんだと?」


 ほら。怒っちゃった。


「言ったはずだぞ。私は只人(ただひと)(あら)ずと。お前はそれを冗談だと言って取り合わず、それを無謀なことをする理由にするなと怒ったな。私は覚えているぞ」


 え。ティガはオルクスひいおじい様に、自分は人じゃないよって言ったの?!それはだめでしょう!


「………なぜそのことを知っている。お前は、本当にティガなのか?」


 あ。オルクスひいおじい様は、ティガの言葉を信じ始めているね。


「だから、そうだと言っている。なんなら、お前の恥ずかしい話を披露してやろうか?妻のメリアにプロポーズするとき、指輪のサイズを間違えてメリアに怒られたこととか。サイズ調整に宝石商に赴く際、ポケットに入れていた指輪をスられたとか。それから………」


 ふふっ。それは、誰でも恥ずかしいよね。


「待った、待った!わかったからやめてくれ!」


 オルクスひいおじい様が、真っ赤な顔をしてティガの言葉を遮った。ちょっぴり、目元に涙が溜まっている。


「今、仲間内でお前のことをエルフの血が流れていると話していたことを思い出した」


 なるほど。エルフは長命種だもんね。働き盛りの頃は、ほとんど見た目が変わらないんだっけ?それなら、ティガをエルフの血が混じっていると考えてもおかしくないよ。ティガは美人だもんね〜。


「そうか。思い出してくれて嬉しいよ。だったら、私の言いたいこともわかるだろう?」


 わたしはオルクスひいおじい様と一緒に行かず、ティガたちと馬車でダフネの町まで行くんだよね?


「ぐぬぬっ。お前たちは馬車で来るといい。ダフネの町で合流するぞ。だが、ルルアーナは儂のひ孫だからな!ラングレー家で育てるからな!」


 うん。まあ、そうしてくれるとありがたいけど。現当主のおじい様や、その息子で王立騎士団長の叔父様の同意は、まだ得られてないよね?


「それがどうした。私は、ルルアーナが生まれたときより見守ってきた。私とルルアーナの間には、すでに絆がある。そうだろう?ルルアーナ」


 ティガは優越感に浸ったどこか恍惚とした表情で、わたしの同意を得ようと声をかけてきた。


 いい加減、この話し合いを終わらせたかったわたしは、こう答えた。


「………りゅりゅあーなは、てぃがちゅきでしゅ」


「「………」」


 ティガは嬉しそうに笑って、わたしの頭を撫でた。


 一方のオルクスひいおじい様は、滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら膝から崩れ落ちた。


「うわああああ!どうしてなんだ、ルルアーナあああっ!」 


 泣き叫ぶオルクスひいおじい様は、ふたりの騎士に羽交い絞めにされて馬車の外へ連れ出されて行った。 



 




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