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第37話 Sランク冒険者

 セスト国の砦からファルース国の砦までは、乗合馬車で約一時間の距離にあった。


 ふたつの砦の間はなにもなく、もし二国間で戦争が起きたとき、ここが戦場になるんだろうなと思った。


 ファルース国の砦はセスト国の物より横幅が狭かったけれど奥行きがあり、よく手入れされている感じがした。国境警備隊の兵士はセスト国の兵士より全体的に背が高く、背筋がピンと伸びていてかっこいい。


 ティガ曰く、「セスト国とは兵士の練度が違うな」ということらしい。


「ファルース国へは、どのようなご用事で?」


 乗合馬車の荷台を覗き込みながら、兵士が質問をしてきた。


 セスト国の関所では馬車から降ろされて、時間をかけて審査をされたけれど。ここでは馬車に乗ったままでいいらしい。


「帰省です。私と夫はグリーシャ辺境伯領の出身でして。娘が少し大きくなったので、祖父に会わせるために故郷へ行くんです」


「そうですか。楽しみですね」


「はい」


 ちなみに、さっきは受け答えをお父さんはしていたけれど、ここではお母さんがやっている。なにか意味があるのかな?


「それで。お嬢さんを抱いているそちらの方は、どうしてファルース国に?」


「私はミーアたち家族の護衛です。正式な依頼は受けていませんがね」


 フードを下ろし、顔を晒しているティガが愛想よく言った。


「ふーむ。冒険者登録はしていますか?」


「当然だ」


 そう言うと、ティガはポケットから出すフリをしながらアイテムボックスへ手を入れて、金属のプレートを取り出した。 


「………は、Sランク魔法使い?!しかも、所属はあのアンデルタ………。失礼しました。ティガ様、どうぞお通りください」


 んん?どういうこと?兵士がティガに敬礼したよ?


 そのまま砦の兵士に見送られて、わたしたちは砦を後にした。


 ダフネの町へ向かう馬車の中で、動揺しているのはわたしだけだった。さっきの兵士との会話を聞いていたはずのお母さんもお父さんも平然としている。


 Sランクというのは、冒険者のトップランクだ。強ければなれる、というものではなくて。所属国の王侯貴族の後ろ盾が必要になる。


 アンデルタという国は聞いたことがないから、アンデルタはパーティー名か、それとも冒険者が集まってできる冒険者組織(クラン)だと思う。


「あら?ルルアーナ、難しい顔をしてどうしたの?」


「おかーしゃん。てぃがはあんでりゅた?」


「そうよ。ティガ様はアンデルタの冒険者なの。いつもルルアーナとジュードが寝てから話していたから、ルルアーナは知らなかったわね」


「あい」 


「アンデルタというのは、グリーシャ国に本拠地を置くクランの名前だよ。クランというのは十名以上の冒険者が集まって作った組織のことを言うんだ。依頼によって、依頼に合わせたクランメンバーでパーティーを組んで仕事をこなすのが普通でね。アンデルタは歴史あるクランだから、ファルース国では有名なんだよ」


「あい」


「なんて言っても,、ルルアーナにはまだ早いよね。あっはっは」


 うん、まあ、それはいいよ。疑問なのは、わたしが生まれる前からわたしにずっと寄り添ってくれていたティガが、いつSランク冒険者になったか?ということ。


 それに、活動実績がなくても、冒険者登録を抹消されたり、ランク降格にはならないものなの?


「皆さん!前方から騎士がこっちに向かって来ています。馬車を停めますね!」


 御者の声が聞こえて、馬車がゆっくりと止まった。


 考えごとをしていて、騎士には気づかなかったな。なんの用だろう?


 ドドドドッ!


 馬が地面を力強く蹴る音と振動が響き、馬車の横を騎士を乗せた馬が通り過ぎた。馬のスピードを落としながら馬車の周りをグルグルと回り、ひとりの騎士が馬車の窓から中を覗き込んできた。もうひとりは御者に話しかけていて、最後のひとりは馬を降りて馬車の入り口に陣取っている。………気配でわかるよ。


「いました!ミシェルお嬢様とアストラです!」


 おお、腹式呼吸だ!馬車の中を確認した騎士が辺りに響く声で叫ぶと、すぐに馬車の入り口が開けられてひとりの老騎士が乗り込んで来た。


「おじい様ったら。ダフネの町でお待ち下さいと、何度もお願いいたしましたのに」


 お母さんが、貴族女性のような口調で話している!


「久しぶりに会って、初めに言うこちがそれか?変わらぬな、ミシェルよ」


 老騎士はお母さんを見て、嬉しそうに目を細めている。


 老騎士は白い髪を短く切り揃え、強面の顔にはいくつもシワが刻まれているけれど、銀色のよく磨かれた鎧がよく似合う。どこか油断のならない雰囲気を漂わせた人物だ。


「おじい様、せっかく出迎えていただきましたが、私たちは馬車でダフネの町へ参ります。また後で、ゆっくりお話しいたしましょう」


 お母さん、そうだよね。外にいる馬は三頭だけだから、相乗りをするにしても一頭足りないもの。


「わかった。ルルアーナは、儂が連れて行く。向こうで落ち合おう」


 この老騎士は、いきなりなにを言うの?!


 老騎士はティガの膝の上に座っていたわたしを見つけ、両手を差し出した。


「ルルアーナ、儂はお前のひいおじい様だ。おいで。一緒に行こう」


「………」


 うん。わかってた。オルクスひいおじい様だよね。気配がお母さんと似てたから、馬でこっちに向かって来てたときから、そうじゃないかと思ってたんだ。






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