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第31話 ティガの魔法

キリのいいところまで書いたら、いつもより長くなってしまいました

 レウリコの町へ来るまでの間、立ち寄った村でわたしたちは人の注目を浴びてきた。それは、ティガとアルがとにかく目立っていたから。悪目立ちとも言う。


 見るからに上等な服を着て、一緒にいる人間に気を遣われている貴族のような出で立ちのティガは、フードで顔半分を隠しているけれど見えている口元だけでも美人なのがわかり、わたしに話しかける声は恋人に話しかけるように甘い。


 そんなティガが肩に乗せているのは、目にも鮮やかで宝石を纏ったように美しい青い鳥のアル。


 目立たないわけがないよね。


 無駄に人目を集めながら歩いていたせいか、町の東区入り口に着いたとき、出迎えのいかつい男たちが並んでいた。ついでに、大勢の見物人もいる。


 恐くなって、思わずティガにしがみついた。


 すると、ティガは自分の左腕に座らせたわたしを右腕で抱き締めてくれた。


「ルルアーナ。ルルアーナには私とアルがついている。心配はいらんぞ」


 わかってる。ティガとアルに(かな)う人間なんていないって。でも、恐くて………。


 身体がブルブルと震える。


 そんなわたしをティガは愛おしそうに見つめ、わたしの額に口づけを落とした。


「守護の魔法を施した。これで、人も物も、魔法すらも、ルルアーナの許可なくお前に触れることはできなくなった。もう大丈夫だ」


 え?なに、そのとんでもない魔法。


 びっくりして顔を上げたとき、いかつい男たちの集団がすぐ目の前まで迫っていた。皆、似たような作業着姿で、労働者らしくたくましい身体つきをしている。


「こんなところへ、お貴族様がなんの用だ」


 男たちのリーダーらしき男が言った。


「私はティガ。貴族ではない。ただの旅人だ」


 ティガが答えると、男は眉間にシワを寄せた。


「俺たちみたいな下々の者には、正直に答える価値もないってか?」


「ふむ。どう思おうがお前の勝手だが、ここへはジュードの付き添いで来ただけだ」


「ジュードだと?」


「お、俺です!父さんに会いに来ました!」


 ジュードが一歩前に出て、男たちの視線を集めた。


「………父親の名前は?」


「ダルガです。フィリルの街のダルガ。事故に巻き込まれて怪我をしたと、ディエゴという人からの手紙に書いてありました。父さんはどこにいますか?」


 ジュードはそう言って、ポケットからくしゃくしゃになった手紙を出して掲げた。


「………こっちだ。お前だけついて来い」


「はい!」


 男の言葉に、ジュードは間髪入れずに返事をした。そしてティガに振り向き、「行ってきます」と言って頭を下げてから歩き出した。


 男たちのリーダーらしき男が背を向けたとき、そのお尻に尻尾が見えた気がした。近くにいた数人の男たちを引き連れて、駆け足で彼らに追いついたジュードと一緒に奥の方へ歩いて行った。


「ティガ、このあとはどうする?」


「待つしかあるまい。そんなことより、ルルアーナ。腹が空いているだろう。どの果物を食べる?」


 どの?果物と言えば、リンゴでしょ?あとは、ブドウとイチゴかな。わたしはどれも好きだよ。


「わかった。全部食べさせてやろう」


 言ってから、ティガは立ったままなのが気になったらしい。魔法で水を呼び出して椅子とテーブルを作り出した。


 周囲からどよめきが起こる。


 よく知られた水の魔法と言えば、生活魔法のウォーターだよね。コップに水を入れる魔法だよ。あとは、水を飛ばすとか?とにかく、水はその形を留めることはできない。という考えが一般的だと思うよ。


 その水が、美しい椅子とテーブルの形を保っている。氷の彫刻みたい。でも、中の方で揺らいでいるから、氷ではないと思うんだよね。


 その椅子に、ティガは腰を下ろした。………ティガの身体は沈まないし、服が濡れることもない。不思議。


 ティガはわたしを自分の膝に座らせると、今度はどこからともなく取り出したリンゴとブドウ、イチゴをテーブルに並べた。同じくどこからともなく取り出したナイフで、リンゴを切り分けて皮を剥いたものをわたしの手に持たせてくれた。


 小さな口でくし切りにされたリンゴにかじりつくと、ティガは満足そうに微笑んだ。


 リンゴは甘く、ちょうどいい酸味があって、歯ごたえもいい。すごく美味しい。


 ねえティガ。このリンゴ、お母さんとお父さんにもあげていい?皆で一緒に食べたいの。


「ああ、いいだろう。ルルアーナはいい子だな」



○○○



 俺は、名乗りもしない男たちの後について入り組んだ道を歩いていた。普通なら、この道をひとりで戻れと言われたら無理だろう。でも、俺は犬獣人だから鼻が利く。匂いをたどって戻ることはできる。


 それより、こいつら………全員、獣人だ。匂いから言って、全員が犬獣人だと思う。


 なんなんだ?


 獣人は、この国では珍しい。皆、正体を隠して生活してる。正体がバレたらどんな目に遭うかわからないから、子供は完全な人化ができるようになるまで家から外へ出ない。


 俺が外へ出られるようになったのは、一年くらい前だ。その頃、母さんが死んで、父さんを支えるのが俺しかいなくなったから頑張ったんだ。


 外へ出られるようになって知ったのは、フィリルの街に獣人はほとんどいないってこと。獣人は、ひっそりとヒトのフリをしながら助け合って暮らしていた。


 それなのに、ここはなんなんだ?どうしてこんなに獣人がいるんだ?


 わけがわからない。


「おい。着いたぞ」


 先頭を歩いていた男が、血の匂いのする建物の前で立ち止まった。


 ここは、嫌な臭いがする。血と、薬と、肉が腐ったような臭いがする。


 先頭を歩いていた男だけ、扉を開けて中に入って行った。残りの男たちは、扉を守るように立っている。俺は、嫌な予感がしながら中に入った。


 建物の中は空気が淀んでいて、吐き気がする。


 建物の中に入ってすぐ、受付のような場所があった。そこにいた女の人に、男は「ダルガの客だ」と言って奥に続く廊下を進んだ。


 ダルガは父さんの名前だ。父さんはここにいるのか?でも、父さんの匂いがしない。


 廊下の両側には扉が並んでいて、そのどれもから嫌な臭いが漂ってきている。鼻がおかしくなりそうだ。


 ふいに、男が立ち止まった。急いで男のところまで行く。


 そして、男が開けた扉の向こうにはベッドが並んでいた。どのベッドにも包帯だらけの男が寝かされていた。


「ダルガ、息子が来たぞ」


 男が室内に入りながらそう言うと、ひとりの男がうめき声を上げた。


 父さん?!いまのは父さんの声だ!


 慌ててベッドに駆け寄り、包帯だらけの顔をのぞき込んだ。あぁ、父さんだ。父さんの目だ!


「父さん!俺だよ、ジュードだよ。聞こえる?俺、来たよ」


「ううっ。あ゛〜っ!」


 父さんの口から、獣のような声が漏れた。


「なんだよ、これ………」


「ある建設現場でな、火事が起きたんだ。まるで魔法で火を操られたみたいに、火が建物全体に回って一気に建物を飲み込んだ。ダルガは建物の外にいたんだが、逃げ遅れた仲間を助けるために中に飛び込んで行きやがった。で、そいつを庇って瓦礫の下敷きになってな。なんとか助け出したときには、こんな状態だった」


「そんな………なんとかならないんですか?なんでもしますから、父さんを助けてください!」


「できることはやった。ダルガが獣人じゃなきゃ、とっくにくだばってる。最後に息子に会わせてやりたくて、手紙を出したんだ。最後に間に合ってよかったな、ジュード。俺がディエゴだ」


 嫌だ!このまま父さんを死なせるなんて嫌だ!


 考えろ、考えろ!なにか、あるはずだ。


 涙がボロボロ流れてくるけど、そんなのは後回しだ!


 ディエゴって奴は、「できることはやった」って言った。このレウリコの町では、父さんを助けられる奴はいないってことだ。でも、よそから医者を連れて来るには時間が足りない。

 

 それならどうする?!


「………そうだ。ティガ様だ!」


「ティガ?あの、ヒト族のガキを連れた男か?」


「そうだよ!ティガ様なら、きっと父さんを助けてくれる。ここに連れて来るから、そこどいてくれ!」


「落ち着け。あの獣人の男はどこかおかしい。危険だ」


「危険でもなんでもいい」


「だめだ。俺は、ここの獣人たちを守らなきゃいけねえ。ダルガひとりのために、全員の命を危険に晒すわけにはいけねえんだ」


「それなら、俺の命をかける。ティガ様が他の獣人に悪いことをするなら、俺を殺してくれていい。俺は父さんを助けたいんだ!」


「………わかった。お前に免じて、今回だけあいつを信じてやる」


 





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