第30話 レウリコの町
あれから、お母さんとお父さんもティガに対する【様】呼びを止められた。それだけでなく、敬語を使うことも止められた。仕方ないよね。ただでさえ貴族でも手に入らないような質のいい服を身にまとっていて目立つのに、敬語を使って付き従う者が三人もいたら人目を引くもんね。
そしてアルだけど。鳥の姿のまま一緒に行動することになった。ティガの肩の上が定位置だよ。
朝日も昇って宿屋を出る時間になったとき、宿屋の受付カウンターを通った記録のないティガが一緒にいると問題になることにわたしたちは気づいた。
勝手に宿泊手続きをしていない人間を部屋に泊めると、普通は宿屋の人に怒られるんだよ。
今回は人数分の宿泊料金じゃなくて、部屋に対する宿泊料金だったから泊まった人間が増えても問題ないと思うけど。でも、ただでさえティガとアルは目立つのに、下手に注目を集めるようなことはしないほうがいいと思う。
そう言うと、ティガはアルを肩に乗せたまま窓から外に出た。
宿屋の受付カウンターで部屋の鍵を返して外に出ると、ティガが先回りして待っていてくれた。
ティガは顔をフードで顔を隠していて、見えているのが口元だけだとしても、その顔が美人なのだと想像させる力があるようで。通りにいた人々の視線を集めていた。
ティガは宿屋から出たわたしたちに近寄り、お母さんに抱っこされていたわたしをお母さんから受け取った。
ティガはお母さんより背が高いので、いつもより広い範囲がよく見えておもしろい。
ティガはわたしを自分の左腕に座らせると、お父さんに目配せをした。すると、お父さんが先頭に立って歩き出した。お父さんの隣にはお母さんが並び、そのすぐ後ろにはジュード。そしてわたしを抱き、肩にアルを乗せたティガが続いた。
そうしてたどり着いたのは、レウリコ行きの乗合馬車の乗り場。探したのは、昨日、乗っていた馬車だよ。
見つけたときには、すでに昨日もいた老夫婦が馬車に乗り込んでいた。わたしたちは老夫婦と御者に挨拶をして、ティガの分の料金を払ってから馬車に乗り込んだ。
う〜ん。質素な乗合馬車に、ティガが似合わない!
ティガはいま、馬車の中に備え付けられた木のベンチに座り、自分の膝に乗せたわたしの髪をブラシで梳かしている。
どうして、自分で髪を梳かすのと、人にやってもらうのとでは気持ちよさが違うんだろう?
はぁ〜。気持ちよすぎて、ずっとやってもらいたくなるよ。
馬車が出発する時間になってもお客さんは増えることはなくて、馬車はわたしたちと老夫婦だけを乗せて出発した。ちなみに、周囲への警戒にために、御者席には御者とお父さんが座っているよ。
ソランの街を出てからは、特になにごともなく進んだ。人も魔物も襲って来ることはなかったし、途中の村でのトラブルもなかったよ。
お昼休憩で立ち寄った村では、残っていたビックホーンブルのお肉を食堂で焼いてもらって皆で食べた。皆というのは、御者さんを含む同じ乗合馬車のメンバーだよ。最初は渋っていた食堂のご主人も、余ったビックホーンブルの肉を渡すことで了承してくれたの。
食事中はティガが甲斐甲斐しくわたしの世話をしてくれた。大人の食事から取り分けたステーキを、プルフ村から持って来たスパイスと魔法で煮込み料理に変えたり、デザートのリンゴを焼きリンゴに変えてくれた。おかげで食事のご主人からの食い入るような視線を集めてしまったよ。
皆も他のお客さんからの刺さるような視線に耐えながらお昼ご飯を食べて、一行は揃って乗合馬車で最終地点となるレウリコの町へ向かった。
夕方に着いたレウリコの町は、一言で言うと、活気に溢れた町だった。まず、遠目からでも町を囲む壁を大きくする工事が見えて、中に入るとあちこちで建設工事をしていた。田舎の町らしい曲がりくねった道を綺麗に整備し、ぽつぽつある質素な木造の家を壊して、丈夫なレンガを使った家に建て替えている最中だった。まるで、町を造り替えているみたい。
建設工事に関わる作業員なのか、汚れた格好の男たちが町の東区に向かって移動していた。そちらには作業員のためらしい大きな宿泊所や、食堂、商店のほか、色っぽい女性が客引きをする見るからにいかがわしいお店があるらしい。
トラブルに巻き込まれないように、絶対に町の東区には近づかないようにと御者のおじさんに言われたよ。
御者のおじさんによると、レウリコの町の領主の邸は北区にあり、北区には町の有力者の家が集中しているんだって。商店街は町の中心にあって、西区は平民が住み南区は旅人向けの宿屋があるとのこと。各ギルドがあるのも南区だって。
だから、南区と中心街以外は行かない方がいい、と教えてくれたよ。
ここまで一緒に来た老夫婦は、西の平民地区に息子さん家族がいるそう。馬車乗り場に迎えに来ていた息子さんと一緒に去って行ったよ。
そして、スリをしてでもレウリコの町へ来たがったジュードは、御者さんが近づかないように行った町の東区へ行く、と泣きそうな顔をして言った。
すぐにでも駆け出しそうなジュードを、お父さんはひとりでは危ないから一緒に行くと言って止めた。
お父さんは、わたしやお母さんたちを宿屋に残して行くつもりだったみたいなんだけど、肝心の宿屋に空きがなくて泊まれなかった。だから、しかたなく全員で東区へ向かうことになった。




