第27話 ちょっと休憩
朝起きると、アルの気配がなかった。
ティガの気配は確かにするのに、どうしてアルの気配がしないの?どこかへ出掛けてるの?
室内は薄暗く、窓の外を見ると、まだ日は昇っていない。
そういえば。ひいおじい様からの手紙にはなんと書かれていたんだろう?わたしは寝ちゃったから、手紙の内容を教えてもらってないんだよね。内容が気になるな。
手紙はどこにあるのかな?
『ルルアーナ、手紙はミーアが持っている。小さいカバンに入れていたぞ』
え?よく知ってるね。ティガは見ていたわけじゃないんでしょ?
『見なくても、気配の動きでわかる』
そうなんだ。すごいね!
えーと。お母さんの小さいカバンと言うと、腰に着けるカバンかな。
わたしは皆の荷物が置いてある壁際に行き、床にペタンと座った。そして、お母さんのウエストバッグに手を伸ばす。
「………」
『どうした?』
やっぱり、ひとの荷物を勝手に見るのはよくないよ。手紙を見るのはやめておくね。
わたし伸ばした手を引っ込めて、スッと立ち上がった。
開けたままの窓へ近づくと、アルの姿が見えないかと目を凝らした。でも、姿どころか気配も感じられない。寂しい、な。
………プルフ村にいた頃はよかったな。赤ちゃんの頃はティガとアルはしょっちゅう会いに来てくれていて、ひとりで座れるようになってからはお気に入りの下で過ごすようになり、そうするとティガとアル一緒にいられる時間が一気に増えた。
ティガ身体は【猫】という生き物の姿を模していて、胸の毛が長く、全身を黒い被毛に覆われている。だから、わたしはずっと「もふもふの神様」呼んでいた。
ティガはときどき木の上から降りてきて、その素晴らしい身体を触らせてくれた。ティガの毛はふんわりと柔らかくて、絹を触っているかのように滑らかなの。身体そのものは温かくて、触っていると安心感を与えてくれる。
アルは普通の小鳥と同じような大きさだけど、その青い羽表は現しようがないほど美しい。まるで、宝石を身にまとっているみたい。触ると羽はさらさらしていて、だからわたしは「さらさらの神様」と呼んでいた。
そして、アルはとにかく可愛い。可愛くて綺麗。飛んでいる姿は、眩しいもの見るような気分にさせる。
ずっとそばにいてくれて、会いたいときはすぐに会えた神様たち。
その神様たちの姿が見えないことが、心の中にぽっかりと空いた穴が空いたように感じるよ。寂しいの。
『………ルルアーナ、そちらへ行こうか?』
ううん、我慢する。いまはジュードがいるから、姿を見られたらまずいもの。
『ルルアーナってば、あたしがいるでしょ!あたしがいれば寂しくなんかないわよ』
あ。ライラ、起きたの?
『起きたわよ。ルルアーナ、あたしがいても寂しいの?』
うん。ティガとアルは、わたしのもうひとつの親みたいなものだから。姿が見えなかったり、触れ合えないのは寂しいの。
『そっか。それはしかたないわね』
うん………。
そうだ。お腹空いてない?
『いえ、まだ大丈夫よ。本当は、ルルアーナの魔力を食べるだけで十分なのよ。でも、魔宝石は美味しいからつい食べちゃうのよね』
魔宝石?
『宝石に魔力を込めたものよ。人間の貴族は、魔法そのものを宝石に閉じ込めて身に着けるのが好きみたいよ』
へえ。宝石に魔法をね………?
宝石は見た目もいいし、結界の魔法なんかを入れて護身用に身に着けるにはいいかもしれないね。襲われたとき、護衛が駆けつけるまでの時間、結界の魔法で身を守れたらいいよね。
………んん?………あ、アルー!!
アルの気配に気づいた次の瞬間、姿を隠したアルが窓から部屋に飛び込んで来た。そのまま勢いを殺すように天井付近をグルグル回り、スピードが緩やかになってから床に降り立った。
近づくと、アルが顔をわたしに擦り寄せてきた。可愛い。
アルはどこに行ってたの?
『オルクスのところよ。あの男、いいわね。なかなか見どころがあるわ』
そう?
『ほら、手紙よ。早く受け取って』
あ、うん。
オルクスひいおじい様は、こんな時間になんの用なんだろう?急ぎの用事かな?
手紙は小さく折りたたまれてアルの脚に掴まれていた。それを受け取ると、床の上に広げた。達筆な字で、手紙にびっしりと書かれていた。………達筆過ぎて読めない。
しょうがない。解読の魔法を使うか。
解読の魔法は、例えば暗号文を解読したり、古代文字や外国の文字を読めるようにしてくれる便利な魔法だよ。
わたしは、手紙全体に解読の魔法をかけて読むことにした。




