第22話 ビックホーンブル
ジュードは痩せこけていて、ご飯を満足に食べられていないことはすぐにわかった。………お腹、空いてるよね?
「おかーしゃん。じゅどに、ごあんいい?」
「そうね。いいわよ」
お母さんはにっこり笑って、自分のカバンから大きな葉っぱに包まれた物をひとつ取り出した。
その様子を見たお父さんは自分のカバンから木のコップを取り出し、生活魔法でコップに水を満たした。
「ミーアは、ルルアーナの言ってることがよくわかるなぁ」
「生まれたときからルルアーナのことを見ているから、なんとなくわかるのよ」
「いや、それは俺だってそうだけど………ほら、ジュード。水を飲むんだ。喉が渇いてるだろう?」
お父さんは身を乗り出し、ジュードの手にコップを握らせた。
「あ、ありがとう」
ジュードはお礼を言い、コップを受け取ると一気に水を飲んだ。よっぽど喉が渇いていたんだね。
五歳になれば誰でも祝福を受けられて、生活魔法を使えるようになるけれど。魔力量は人によって違うから、魔力量の少ない人はそうホイホイ魔法を使えないもんね。
コップに水を満たすウォーターの魔法が使えても、魔力がなかったら魔力が使えないのと同じだよ。
「さあ、今度はこれよ。今朝、屋台で買ったばかりだからまだ温かいわ。ゆっくり食べてね」
今度はお母さんが身を乗り出し、ジュードの手からコップを受け取ったあとで葉っぱの包みをジュードに渡した。コップは、お父さんが布で拭いて自分のカバンにしまった。
ジュードは手の中の包みをじっと見つめたあと、ポケットからお財布を取り出してお父さんに渡した。
「いいのかい?」
「いい。それは、あんたの物だから」
「 そうか。君はいい子だな」
「!!」
ジュードは顔を赤くすると俯いた。
ふふ。可愛いね。
ちなみに、お母さんがジュードにあげた包みの中身は、スライスしたパンに焼いた肉と野菜を乗せたもの。味付けはシンプルに塩のみ。馬車乗り場に行く途中でいい匂いをさせていたのを、お母さんが三つ買ったんだよ。
ジュードは包みを開くと目を輝かせ、口を大きく開けた。
「ジュード、だめよ。一気に食べたらお腹がびっくりするから、ゆっくり食べてね」
ちょっとお母さん。笑顔なのに圧があるよ!
「………わかった」
ジュードは不満そうだったけど、大人しくお母さんの言うことに従った。
そんな様子を年配の夫婦はほほえましいという表情で見つめていたけれど、冒険者三人は苦虫を噛み潰したような顔をして見ていた。
しばらくは、何事もなく馬車は進んだ。
問題が起きたのは、お昼休憩をしていたとき。
「なあ、あんた。ミーアだったか」
全員女性の冒険者パーティーの四人が声をかけてきた。
馬車の外に出て地面に座り、ジュードと一緒にお昼ご飯を食べようとしていたわたしたちは、自然と彼女たちを見上げる形になる。
「なんでしょう?」
「あたしたちはさ、さっきの騒ぎのせいでご飯を買えなかったんだ。あんたは人助けが好きみたいだし、あたしたちにもご飯を分けてくれよ」
言いながら、その冒険者パーティーは自分たちの武器に手をかけニヤニヤしている。
脅すつもり?
『ルルアーナ、そっちにビックホーンブルが一匹行くぞ』
………あ、ティガ。教えてくれてありがとう。
ティガがくれた情報のおかげで、頭に登りかけた血がすーっと下がった。危なかった!
「おかーしゃん、おとーしゃん。ぶりゅくりゅ。ごあん、くりゅよ」
わたしの口じゃビックホーンブルなんて言えないから、ブルとだけ言った。
冒険者たちに言い返そうとしていたお母さんは、わたしの言葉を聞いて嬉しそうに笑って立ち上がった。
「やったわ!ルルアーナ、ブルがこっちへ向かっているのね?冒険者さんたちはお腹が空いているみたいだし、ちょうどよかったわ」
「はあ?ブルが来る?なに言ってんだあんた?」
女冒険者たちは、お母さんの言葉を鼻で笑い飛ばした。う〜ん。危機意識が足りないんじゃないの。
「ルルアーナ、ブルはなん匹いる?」
お父さんも立ち上がり、周囲に異変がないか視線を巡らしている。
わたしも立ち上がって、混乱しているジュードの手を掴んだ。
「おとーしゃん、いぴき、あっちからくりゅ」
わたしは遠くを指さしながら静かに言った。視力ではお父さんに叶わないけど、わたしは気配を掴むことができるの。だから、お父さんより早く見つけられる。
「わかった。行ってくる」
「にげてるひといりゅよ」
「任せておけ!」
そう言うと、お父さんは愛用の剣を手に、街道を外れて近くの森に向かって走り出した。
「なんだありゃ?ガキの遊びに付き合ってやってんのか?」
「それにしては、走るの速くない?」
「あっちって、森がある方向でしょ。ちょっとナタリー、あんた斥候なんだから、なにかわからないの?」
「ちょっと待って。なにか見え………人ね。人が走ってくるわ」
「「「それで?」」」
「………やだ、襲われてる!しかも、なにがブルよ。あの大きさ、ビックホーンブルじゃないの!」
ナタリーと呼ばれた女性の言葉に、仲間たちの顔がサッと青くなった。




